原発事故の賠償指針で被災地に広がる不安、「線引き」が決める原発賠償の”格差”

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 被災地で事業を行っていた中小企業でも、賠償に対する不安が広がっている。

東電はこれまで農業・漁業従事者のほか、中小企業に対して仮払いを実施。7000社強を対象に上限250万円として、3月12日から5月末までに想定される売上高から原価を差し引いた、粗利益の2分の1を支払っている。ところが「零細スーパーなどは原価が高く、粗利益が1割程度。わずかな仮払いでは取引先への支払いで、すぐなくなってしまう」(浪江町商工会の神長倉氏)。

財物や事業設備への賠償も、どれだけカバーされるのか見えにくい。不動産や動産は「価値の喪失部分を賠償」としているが、事故前はともかく、事故後の価値の算定方法は不明だ。加えて設備や車両などは、「減価償却の済んだ機材が賠償の対象になるのか、明確になっていない」(大熊町商工会の鈴内章一事務局長)。被害を立証するにも証明書などが必要となるが、事業所への立ち入りさえできない状態で書類をそろえるのは、至難の業だ。

より難しいのが、事故がなければ挙げられていたであろう、将来的な収益への賠償だ。「原発事故が収束しても地域再生には何十年もかかり、事業者が事故前の売り上げを取り戻すには時間が要る。事故収束日を賠償の最終日と考えてもらっては困る」と、福島県商工会連合会の佐藤幹夫事務局長は念を押す。

一体どこまでカバーしてもらえるのか--。商工会では事業者に対して避難先での事業再開資金を貸す動きもあるが、先が見えない中で事業者側が躊躇する向きも強い。

それ以前に、政府が地元に戻れる時期を明確にしないことで、大半の事業者が当面の身の振り方に悩んでいる。「無職・無収入の状態でも、1年間は失業保険も出るので、様子見という事業主が多い。できれば地元に戻って事業を再開したい思いも強く、避難している地域で仕事を探す踏ん切りがつきにくい。事故が収束しない中ではスタートラインにも立てない状態だ」(大熊町役場企画調整課の秋本圭吾課長)。

一方で、事業者からは「会社休業で就労不能による損害賠償を請求する場合、新たな職を得て働いた収入分は控除されると聞いた。働いた者の方が賠償額が少なくなるのは、納得できない」との声も聞こえる。

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