パレスチナ国家の国連加盟は実現するか

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第3次中東戦争でイスラエルは東エルサレムを手に入れた。そこにはユダヤ教の聖地「嘆きの壁」が含まれる。(2)の東エルサレム全域をパレスチナ国家の首都とすることは、「嘆きの壁」などユダヤ人とイスラエルにとって不可欠な場所を放棄することを意味する。

(3)と(4)については解説が必要だろう。イスラエル、パレスチナは水資源が少ない。パレスチナが経済的に自立するためには、主要な水源であるガリラヤ湖とそこから死海に流れるヨルダン川の水利権をイスラエルから分けてもらう必要がある。

(4)については、第1次中東戦争以降のパレスチナ難民とその子孫は、国連の統計によれば500万人といわれ、イスラエルにとっても国際社会から非難される、のどに刺さった骨になっている。

パレスチナ難民の帰還権をどの範囲まで認めるかがパレスチナ国家樹立に当たっての焦点になる。

イスラエルは、イスラエル国内への帰還権は絶対に認めない立場である。帰還権についてワリード氏も、「経済的補償で譲歩することもありうる」という柔軟な見解を示す。

このように、パレスチナ国家の樹立と国連加盟に関して、両者の隔たりは大きいが、パレスチナ側にとってはエジプトのムバラク政権崩壊=エジプト民衆革命が追い風になっている。エジプトは米国にとって、イスラエルに次いで2番目の援助国になっている。そこには、米国とイスラエルに加え、エジプトが協調して、パレスチナ側、特にガザ地区を実効支配するハマスを封じ込めてきた姿がある。

ところが、エジプト民衆革命の結果、この構図が崩れつつある。イスラエルにとっても、新たな勢力関係の変化に対応しなければならない情勢だ。パレスチナ国家が目指す国連加盟をめぐり、新たな緊張も予想される。

(シニアライター:内田通夫 =週刊東洋経済2011年8月6日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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