"au経済圏"で囲い込む、田中社長の次の一手 ドコモを抜いたKDDIが打ってきた布石

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携帯電話市場は頭打ちのなか、KDDIを成長させてきた田中孝司社長(撮影:梅谷秀司)

2年ほど前、NTTドコモのある幹部はこう語っていた。「いくら苦戦しても、KDDIに抜かれることはありえない」。

しかし2014年度、KDDIは14期連続増益を達成し、売上高、営業利益ともにドコモを抜き去った。田中孝司社長は、「中期計画を進める中で抜いてしまっただけ」と事もなげに話すが、着々と布石は打っていた。

「(キャッシュバックなど)費用をかけて顧客を獲得し、収入を伸ばしてさらに獲得を進めている。よい循環を作れている」と、ライバル社幹部も一目置く。

国内の携帯電話市場は成熟し、大幅な契約増加は見込みにくい。国内外でインターネット分野重視へと舵を切ったソフトバンク、ユーザー獲得競争で苦戦続きのドコモを尻目に、KDDIはなぜ通信分野で成長できたのか。

苦境が生んだ起爆剤

2010年12月。スマートフォン投入に出遅れたKDDIは低迷のさなかにいた。ソフトバンクは当時独占販売だった「アイフォーン」を武器に純増数トップをひた走り、ドコモもソニー・エリクソンや韓国サムスン電子のスマホに力を入れる。田中社長が小野寺正・現会長からバトンを渡されたのは、新規獲得が進まない、苦しいタイミングだった。

「業界3位に沈んだ情勢を上向かせる」。田中社長がまず打ち出したのは、スマホへの大幅なシフト。複数のアンドロイド端末に加えて、2011年には「アイフォーン4S」の導入も決断する。

並行して準備を進めたのが、2012年3月に開始した固定回線とスマホのセット割引だ。自宅の固定電話やネットを押さえることで、家族単位でKDDIへの乗り換えを促し、解約率の減少も狙った。

自前の固定回線は、関東など、一部地域の光回線網に限られていた。そこで電力系の光回線業者のほか、グループ内のジュピターテレコムなど全国のケーブルテレビとも提携し、セット販売でスマホ拡販を進めていった。

ソフトバンクは光回線を持たず、ドコモもNTT東西と独占的に組むことは法律上できない。セット割引はKDDIが独走できる”秘策”だった。

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