いなば食品「怪文書発表」がマズいこれだけの理由 迅速対応も「出さないほうがマシ」リリースで火に油

拡大
縮小

今期の新卒社員は98人となり、そのうち一般職は43人、総合職は55人となる。シェアハウス入居者は、家賃を実質0円にするよう検討している。シェアハウス改修は急逝した副社長の担当で、コンクリートむき出しの場所は、すでに洗濯機が置かれている。

雨漏りの改修を始め、畳も14日に交換予定。そして文章の末尾は、「責任者の死亡により作業指示が大変に遅れ、皆さまに非常に、ご不快をおかけしています。早急に誠意をもって、早期の改修を完了いたします」と結ばれている。

この文章には当初、文の区切りではないところに、謎の改行が挿入されていた。なお4月15日時点で、この文章はすでに書き換えられ、謎の改行は姿を消し、タイトルも「由比のシェアハウス報道について」に変更されている。

質が悪く、違和感を覚える謝罪文

なるべく読者に理解しやすいよう、情報を整理してみたが、それでもなお、それぞれの要素が唐突で、まとまりのない印象を受ける。おそらく「シェアハウスの運用」「今春の新卒採用」「責任者の闘病・死去」「室内の現況・改修」と、4つのトピックにわけられるのだろうが、それらの関連性がわかりにくく、一貫性を感じにくい文章になっているのだ。

ネットメディア編集者として、企業のプレスリリースを長年見てきた立場からすると、企業倫理が問われているタイミングの謝罪文としては、失礼ながら、かなり質が悪いものだと言わざるを得ない。

そもそも、文春報道が「ボロ家」をタイトルにしていたからと言って、発表文まで「ボロ家報道について」とする必然性がない。加えて、一般職を説明するたびに、まるで枕詞のように「異動のない」「転勤のない」「工場配属の」といった表現が加えられる点に、どこか違和感を覚える読者は少なくないだろう。

そして極め付きが、1月に死去した副社長について。のちに削除された部分には、「10月26日に間質性肺炎の急性増悪で緊急入院」「入院期間中の詳細な指示が酸素吸入による呼吸困難でほぼできず、空白となってしまいました」といった記述もあり、詳細に書くことによって、むしろ故人に責任転嫁しているような印象を残す。

この発表に褒めるところがあるとするならば、文春報道から1〜2日後で出されたスピード感だろうか。しかし、はっきり言って、この内容から危機管理能力は感じられない。責任の所在についてはもちろんだが、そもそも「問題点を誤認している」ように思えるのだ。

文春報道が問題提起している論点は、「従業員の労働環境が確保されているか」だろう。ちゃんと記事を読むと、シェアハウスの実態は、あくまでその一要素に過ぎず、問題は一般職の待遇が十分に確保できない企業体質にあるのでは、と指摘する内容だとわかる。

しかし、いなば食品のリリースを読むかぎり、同社が問題だと認識しているのは「シェアハウスがしっかり改修されているか」という1点のみではないかと感じる。広報実務のあれこれを差っ引いても、そもそも前提条件にズレが生じていれば、謝罪も的外れなものとなり、場合によっては「話をそらした」などと、イメージダウンにつながりかねない。

次ページ誤認された問題点
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT