「日米蜜月」アピールと裏腹に進む「外交の新潮流」 内政に翻弄される岸田首相の「次なる外交課題」

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主要国と中国との関係を見ると、最も緊張関係にあるアメリカはブリンケン国務長官と王毅外相が電話を含め会談を繰り返すなど、閣僚クラスの要人が頻繁に接触し、各分野での交渉や協議を続けている。

欧州との関係にも変化が生まれており、今年に入ってオランダのルッテ首相が訪中し、4月にはドイツのショルツ首相が訪中した。そして習近平主席のフランス訪問も検討されている。

ところが日中の間ではほとんど、目立った動きがない。抑止力というこぶしを振り上げるだけでは悪化した関係を改善し、安定した関係を作ることはできない。

日中韓会談をきっかけに中国と直接対話すべき

外交は硬軟織り交ぜて国益を実現しなければならない。安保一辺倒の対応は愚策である。今回の日米首脳会談で「日米同盟はかつてない高み」と合意したのであれば、次は中国と直接対話をする番である。

幸い日中韓首脳会談を5年ぶりに韓国で開催する動きが本格化している。3カ国の首脳会談が実現すれば、それに合わせて岸田首相と李強首相の会談も実施できる。

それをきっかけに日本から首相の訪中を始め首脳の相互訪問を提起するとともに、福島原発の処理水の海洋放出を受け中国が日本産の水産物輸入を全面的に停止している問題などの懸案を一つ一つ話し合い、解決していくべきときにきている。

外交は力と力の勝負ではない。知恵と知恵のぶつかり合いの世界である。内政問題に翻弄される日々を送っている岸田首相だが、外交では、訪米の次はそろそろ中国に対して積極的に打って出なければならないだろう。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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