「日米蜜月」アピールと裏腹に進む「外交の新潮流」 内政に翻弄される岸田首相の「次なる外交課題」

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自衛隊の歴代戦闘機は米ロッキード社などアメリカ製を採用してきた。柱の一つであるF2戦闘機が2035年ころから退役を始めるため、後継機が必要となる。

日本政府はアメリカ企業などと交渉を始めたが、主要部分の情報開示を渋るアメリカ側との交渉が行き詰まったためアメリカ企業との共同開発をあきらめ、2022年末にイギリス、イタリアとの共同開発を決定した。アメリカが関与しない主力戦闘機の採用は初めてである。

そしてその戦闘機を第三国に輸出するというのも大きな政策転換であるが、そこには単に戦闘機の生産コストの削減や国内の防衛産業の振興などという経済的理由だけではない意図が込められている。

対中国の安全保障としての戦闘機輸出

輸出できる第三国は日本との間で、輸出した武器を侵略に使わないことなどを定めた「防衛装備品・技術移転協定」を結んでいる国で、現在15カ国ある。欧米の主要国のほか、シンガポール、インドネシア、フィリピン、ベトナムなどASEANの6カ国やインドや豪州と日本の安全保障に大きく関係する国が含まれている。

日本が2022年に制定した「国家安全保障戦略」は、武器の輸出など防衛装備品の海外移転について「特にインド太平洋地域における平和と安定のために、力による一方的な現状変更を抑止して、我が国にとって望ましい安全保障環境の創出や、国際法に違反する侵略や武力の行使又は武力による威嚇を受けている国への支援等のための重要な政策的な手段となる」と記している。

中国に直接言及はしていないものの、武器輸出が中国に対する抑止力になるとともに、日本と当該国の緊密な関係の構築にも役立つという政策的意図が明記されているのである。

つまり、英国、イタリアと共同開発した戦闘機のASEAN諸国などへの輸出は、日本の安全保障に有益であるという考えだ。

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