就職氷河期の閉塞感は、市場競争に対する支持を失うという意味で非常に大きな問題点をはらんでいる--大竹文雄・大阪大学教授
大竹氏は、日本人の市場競争に対する拒否反応を分析し、市場経済の本質に迫ったベストセラー『競争と公平感』の著者。5月25日に開催された第14回東洋経済LIVEセミナーでの大竹文雄氏による講演の模様を一部お届けする。
日本人の市場に対する反感
本日は昨年出版させていただきました『競争と公平感』という書籍の内容に沿ってお話をさせていただきます。書籍が発売されたのは2010年。反市場主義的な鳩山政権が発足したばかりの頃です。
鳩山政権の発足は09年9月ですが、連立の三党合意文書には次のような文章が書かれていました。「小泉内閣が主導した競争至上主義の経済政策」で、「国民生活、地域経済は疲弊し、雇用不安が増大し、社会保障・教育のセーフティネットはほころびを露呈している」と。
それから鳩山さん自身が『Voice』に書かれた論文も注目を浴びましたが、そこにも「冷戦後から今日までの日本社会の変貌を顧みると、グローバルエコノミーが国民経済を破壊し、市場至上主義が社会を破壊してきた過程」という文章がありました。当時こういった意見が広く国民の間で共有されたために政権を取ったという形でした。
私自身は、それはちょっと行き過ぎだろうと思いながら、あえて『競争と公平感』という当時の世論の方向とは異なるテーマで本を書いたのです。
このような市場に対する反感は、鳩山さんが特殊だったというわけではなく、もともと日本人全体として拒否感があったのだろうと思います。
私は経済学者ですから、市場経済の効率的な面はデメリットよりも大きいと考え、研究してきました。一方でそういう常識と日本人全体の間の受け止め方の間に、随分ギャップがあるのではないかということも、もともと感じてはいました。
さらに、とにかく市場主義に対する反感により政権交代が行われたということがあり、どうも私たち経済学者が思っていることと、多くの日本人が感じていることの間にギャップがあるのだろうと思いました。
日本人のギャップの実態
最初に、そのギャップの実態を実際の統計を使ってお話しします。市場という自由競争で効率性は高められます。しかしそれは、格差や貧困の問題を解消するわけではありません。
格差や貧困はセーフティネット、所得再分配で解決します。つまり、効率性と分配を分けて考えるということです。
本当は完全に分けられないのですが、できるだけ分けて考えることを経済学では教えようとしているはずですが、どうもきちんと伝わっていないという証拠が、後でお示しする統計で出てきます。