就職氷河期の閉塞感は、市場競争に対する支持を失うという意味で非常に大きな問題点をはらんでいる--大竹文雄・大阪大学教授

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日本人の考え方と経済学の考え方が異なる一番の例は、小泉改革批判というところに典型的に表れています。

民主党政権が出てきた背景は、格差問題ですね。私の専門の1つである、所得格差の問題が拡大してきたという背景が、民主党の政権交代にはありました。

その際の議論はどうだったかというと、所得格差をもたらす諸悪の根源は、規制緩和だという流れでした。先ほどの鳩山さんの言葉では「市場至上主義」というのがそうですが、問題は規制緩和によって発生したと考えられています。

しかし、先ほど申し上げたとおり経済学者の多くは、もし格差問題が発生したら、所得再分配で解決すべきだという教科書的な考え方です。

一方で日本の世論はそうはいきませんでした。格差が発生したら、それは規制緩和によってもたらされたのだから、行き過ぎた規制緩和を元に戻すべきだという議論になったのです。

たとえば、タクシーの台数に関する規制緩和が行われてタクシー運転手の所得が下がりました。それは行き過ぎた規制緩和がもたらした問題だから、タクシー台数の規制を強化して、また元に戻すべきだということになりました。実際に規制強化がなされたのです。

おそらく経済学の普通の考え方では、賃金が下がったら、タクシーの運転手たちはほかの仕事に就くか、あるいは低所得で暮らせないということであればセーフティネットで補助していく仕組みをどうやって作るかが標準的な考え方だと思います。しかし規制を強化するという手法で戻していこうと考えたのです。

この典型的な日本人の市場に対する考え方をうまく表してくれる統計があります。『競争と公平感』にも書きましたが、アメリカのPew研究所が世界各国で定期的に調査しているデータの07年の項目です。

その中に、「貧富の差が生まれたとしても、多くの人は自由な市場経済でよりよくなるという価値観に同意するかどうか」という質問項目があります。

格差は生じても市場経済に賛同するという考え方ですが、その比率を主だった国について取り上げてみると、実は過半数、または7割以上の人たちが賛成している国がたくさんあります。その上位にくる国が意外に面白い。

大きな国の中ではインドや中国です。中国が市場経済にこれだけ賛成しているというところは興味深いです。それから韓国、イギリス、スウェーデン、カナダ、アメリカといったところが、7割以上の賛同を得ている国です。7割に近いのはスペインやドイツ。

そしてあまりこの考え方に賛成しないグループが、フランス、ロシア、日本となっています。特に先進国の中では、日本が圧倒的に賛同する比率が低く5割を切っています。私はこのデータを見て非常に驚きました。

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