大正製薬、「安すぎるMBO」批判くすぶる総会の中身 決定過程への質問集中、上原家は終始発言せず

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質疑応答が始まって30分ほどが経過したころだった。突如、議長が「それでは時間も押してまいりましたので、次で最後の質問にさせていただきます」と発言。会場はややざわめき、抗議の声が上がったという。

その後、3人の質問者が当たったのちに質疑応答は終了した。前出の個人株主の男性は、「まだ質問したがっていた株主がいたにもかかわらず、(質疑応答が)打ち切られた」と振り返る。

議長が会場の株主に対し、議案に対する賛否を問うと、2人あまりが拍手をした。総会では明社長らが指名される場面もあったが、議案の内容と利害関係があることを理由に、最後までMBOを主導した上原一族が発言することはなかった。

大正製薬HDは「多くの株主様はTOBにご応募いただいており、今回の臨時株主総会での議案においても多数の賛同を得ていることから今回のMBOは適正」と東洋経済の取材にコメントした。

ファンド株主はすでに法的手段の準備

ただ総会が終わった今もなお、一部とはいえ、株主の疑問は解消されていない。

総会後の臨時報告書によると、総会で提案された株式併合と、それに伴う定款の一部変更に関する議案への賛成率はともに84.89%。TOBを経て上原家が73%の議決権を握っていることを考えると、TOBに応じなかった株主の過半が反対した計算になる。

キュリRMBはすでに、今回のTOB価格をめぐって法的手段に訴える準備を進めている。TOB価格に不服がある株主は、裁判所に適正価格を申し立てることができる。キュリRMB以外の複数の株主もこれに追随する可能性がある。

実際、2020年に実施された伊藤忠商事によるファミリーマートへのTOBでは、キュリRMBやオアシスなどの株主が裁判所へ価格決定の申し立てを行った。東京地方裁判所は株主側の主張を認め、TOB価格の増額が適正と判断したが、伊藤忠側は抗告しており、いまだに議論が続いている。

非上場化に向けた議案が可決されたことで、大正製薬HDはあと2週間で約60年にわたる上場会社としての歴史に幕を閉じる。もっとも、上場廃止をもって一件落着、と結論づけるにはまだ早そうだ。

兵頭 輝夏 東洋経済 記者

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ひょうどう きか / Kika Hyodo

愛媛県出身。東京外国語大学で中東地域を専攻。2019年東洋経済新報社入社、飲料・食品業界を取材し「ストロング系チューハイの是非」「ビジネスと人権」などの特集を担当。現在は製薬、医療業界を取材中。

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