ミスミG「部品の流通在庫がみえない」問題に一石 国内外の約300社と協力しリアルタイムで把握

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駆動部といった大きな物からナットなどの小型品まで、どれか1つでも欠ければ製品は完成しない。業者に片っ端から電話を掛け、回答を待つ間にECサイトを徘徊する。ミスミGによると、機械部品の調達に要する時間のうち、約9割が流通在庫の探索や複数業者への問い合わせだという。

なじみのない相手だと、足元を見られて高額を吹っかけられたり、にせ物をつかまされたりもする。あるメーカーの調達担当者は「切羽詰まって知らない海外業者からIC部品を買ったら、回路部分が空っぽのものが届いた」と明かす。体力のない中小企業にとっては、死活問題になりかねない。

ディージットがそうした現状を変えてくれるとの期待は大きい。飯野氏は次のように語る。「今後は調達に困ったら、とりあえずミスミを頼ればよい。部品の質が担保されるのも非常に大きく、危ない橋を渡らなくてもよくなる」。

調達部門の立場は決して強くない。営業部門からはコスト低減を求められ、製造部門からは「早く部品を入れろ」と急かされる。「ディージットの活用で大幅に所要時間を削減できる。今後は新たな取引先の開拓や価格交渉など、付加価値のある業務を増やしていきたい」(飯野氏)。

ミスミも調達側を苦しめていた

顧客は足りない部品を探し回る手間が減り、協力サプライヤーは手軽に販路を広げられるディージット。その開発を主導したミスミGの木戸雄介・DJシステム推進本部長は、「現場の方々から寄せられた声が構想のきっかけだった」と話す。

さまざまな業者からたらい回しにされ、困り果てて「何とかできないか」とミスミGに問い合わせてくる調達担当者が多かったという。ただ、ほとんどのケースは解決できていなかった。在庫の確保ができずに受注を取り逃がしていたのだ。木戸氏はこう語る。

「顧客の要望に応えきれなかった点で、ミスミも調達側を苦しめる加害者の1人だった。ディージットで産業構造に一石を投じたい。海外でも調達のたらい回しはよく起きている。世界の製造業に『時間価値』を提供し、イノベーションに貢献したい」

ミスミGの流通事業の売上高は2024年3月期で約1700億円を見込む。過去2年とほぼ横ばいで、足踏みが続いている状況だ。ディージットは調達現場に変革をもたらすだけでなく、成長の起爆剤にもなれるだろうか。

石川 陽一 東洋経済 記者

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いしかわ よういち / Yoichi Ishikawa

1994年生まれ、石川県七尾市出身。2017年に早稲田大スポーツ科学部を卒業後、共同通信へ入社。事件や災害、原爆などを取材した後、2023年8月に東洋経済へ移籍。経済記者の道を歩み始める。著書に「いじめの聖域 キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録」2022年文藝春秋刊=第54回大宅壮一ノンフィクション賞候補、第12回日本ジャーナリスト協会賞。

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