「もうトラックは降りる」運転手たちが語る辛さ 「2024年問題」対策への現場の強烈な違和感

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こうした彼らの労働実態に目を向けず、荷待ちの時間ばかりを改善しようとするのは、やはりドライバーの労働環境の改善よりも、「荷待ち時間が長いと荷物が運べなくなる」ことを懸念しているからなのでは、と思えてならないのだ。

「働き方改革」が現場に合っていないと感じるのは、これだけではない。そもそも全国の職業ドライバーを一律「時間外労働960時間」で縛ること自体、理にかなっていない。

日本は縦に長い国だ。それも、都会と地方の人口比率の差が非常に大きい。人口に差があれば、必然的に都会と地方に運ぶ物量にも差が出てくる。

なかでも問題意識が高く、筆者のもとにくる講演依頼で最も多いのが「東北地方」だ。東京や大阪などの都市部周辺で地場配送をする運送事業者と、東北から鮮度が求められる野菜や魚を長距離輸送する運送事業者では、抱えている問題がまったく違う。運送業界は、その運ぶモノや地域によっても完全な「異業種」なのである。

多様化すべきは運ぶ手段ではない

現在までの物流は、ドライバーたちの「トラック好き」に甘えてきた。過酷な環境や理不尽な現場でも、彼らのトラックへの愛情によって物流は支えられてきたのだ。

働き方改革は、そんな疲弊したドライバーの「労働環境を改善する」ためのものではなかったか。労働時間短縮で下がった賃金を、本業終業後さらに体を酷使して補填させたり、ドライバーから、大好きな仕事の現場を奪ったりすることが「働き方改革」なのだろうか。

国が打ち出す2024年問題の解決策は、外国人労働者や女性トラックドライバーの受け入れ、モーダルシフトに自動運転車の開発にと、枚挙にいとまがない。が、これは「運び方改革」ではなく「働き方改革」である。本来多様化すべきは「荷物を運ぶ手段」ではなく、「ドライバーの働き方」ではないのか。

労働時間だけ短くすればいい、人材が足りなければよそから連れてくればいい、機械化すればいい、とするのではなく、地域差や輸送距離、運ぶモノに合わせ、今いるドライバーの働き方を多様化し、働きやすい環境を作らなければ、新しい人材どころか、現在いるドライバーすら失うことになりかねない。

「持続可能な物流」というのは、そういうことを言うのだと、現場を見続けて強く思う。

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橋本 愛喜 フリーライター

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はしもと・あいき / Aiki Hashimoto

大阪府出身。元工場経営者・トラックドライバー。ブルーカラーの労働環境問題などについて執筆。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)。

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