ドラマ「不適切にも~」昭和世代の部長が沼る理由 平成世代の「働き方」と「働きがい」の狭間で

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話を戻すと、先の矛盾が発生したとき、いちばん頼り、無理を聞いてもらい、助けてくれたのが「平成世代」だった。逆にいえば彼(女)らは、会社の中における「しわ寄せの吹き溜まり」になっている。

そんな中で小川市郎(阿部サダヲ)の歌は、実は「平成世代」の「働きがい」の話を補完しているように聞こえた。つまりは今の「働き方改革」議論にすっぽり抜け落ちている視点の指摘。だからこそグッときた――。

山田太一への道を歩みだした

「弱者の物語」を描く「宮藤官九郎・第2章」を言い換えると「令和の山田太一」へのトライアルである。惜しくも昨年11月に亡くなった山田太一への道を踏みだしたのではないか。

思えば、『不適切にもほどがある!』は、山田太一の名作『ふぞろいの林檎たち』シリーズと符合するところが多い。

・ 同じくTBS金曜ドラマ(22時からの枠)
 ・ 番組タイトルが「ふ」から始まる。
 ・ そして各話のタイトルが疑問型→『ふぞろい~(パートI)』第1話:「学校どこですか」/『不適切~』第1話:「頑張れって言っちゃダメですか?」

さらに手元にある『総特集 山田太一 テレビから聴こえたアフォリズム』(KAWADE夢ムック)を見て驚いた。

この本の中で宮藤官九郎は山田作品の中から『ふぞろいの林檎たち』(パートⅡ)を推しているのだが、推奨文の中に「突然始まるミュージカルなど、すでにベテランだった山田先生が『ふぞろい』の型を破ろうともがいているようで勇気が湧きます」と書いているのだ。『不適切にもほどがある!』のミュージカル・シーンは、もしやここから?

宮藤官九郎が、これまでの型を破り「令和の山田太一」に進むためのドラマとして、元管理職として、いや、いちドラマファンとして、本作に注目していきたい。

スージー鈴木 評論家

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すーじー すずき / Suzie Suzuki

音楽評論家・野球評論家。歌謡曲からテレビドラマ、映画や野球など数多くのコンテンツをカバーする。著書に『イントロの法則80’s』(文藝春秋)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト・プレス)、『1979年の歌謡曲』『【F】を3本の弦で弾くギター超カンタン奏法』(ともに彩流社)。連載は『週刊ベースボール』「水道橋博士のメルマ旬報」「Re:minder」、東京スポーツなど。

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