株高に沸く証券界、本当に死角はないのか 国内外に潜むリスクの芽

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一つは、マーケット急変動のリスクだ。野村ホールディングスのグローバル・マーケッツ・ヘッド、スティーブン・アシュレー氏は5月に開催された投資家向け説明会後の記者会見で「昨年10月に米国債市場が大きく荒れたような事象はより頻繁になってくる」と警戒感を示した。

2010年5月に起きた、数分間で株価が急に暴落する「フラッシュ・クラッシュ」が一例だ。昨年1年間だけでも、エマージング市場の急落(1~2月)や昨年10月の米国債急落など、市場がまったく想定していないマーケットの急な変化が起きている。

中国やギリシャ、米利上げなどにリスク

市場関係者が今年のリスクとして挙げる筆頭は、中国経済の変調である。ギリシャ債務問題は債務償還期限である6月末までほとんど時間が残されていないというのにいまだ交渉決着の出口が見えない。そして、今年後半とされる米国・連邦準備制度理事会による利上げをきっかけに、グローバルなマネーフローが急変しかねない。この先、投資家のセンチメントが急変する材料には事欠かない。

一方、国内の足元でも不祥事の芽を抱えている。一例が2014年12月に新規上場したスマホゲーム会社「gumi」をめぐる騒動だ。同社は上場からわずか2カ月半で業績予想を赤字に下方修正。その後、逆に業績予想を上方修正した。業績予想の修正は珍しくないとはいえ、証券会社を見る目は格段に厳しくなっている。バブル末期に損失補てん問題が発覚したように、過去何度も不祥事の大波が証券界を襲っている。

業界最大手の野村ホールディングスでは総会屋への損失補てん事件や増資インサイダー事件のほか、ニューヨークにおける巨額損失計上など、トップ辞任を含む経営の根幹を揺るがす大事件が周期的に起きている。

最後に構造的な問題に触れるとすれば、官民一体となって旗を振る「貯蓄から投資へ」の流れが一向に起きていないことが問題だろう。1600兆円を超える個人金融資産の大半、865兆円もの資金が依然として預貯金という形で眠り続ける。投資信託協会によると、今年5月末の投資信託の純資産総額は102兆4574億円と初めて100兆円を超えた。

証券各社トップは異口同音に「デフレ下では証券大衆化は起きないが、デフレを脱却すれば(証券界にとって)またとないチャンスだ」(大和証券グループ本社の日比野隆司社長)などと、デフレ脱却への強い期待を口にしている。

たしかに、デフレ下では現預金が一番合理的な資産運用方法だが、インフレ経済ではそうはいかない。現預金に眠らせておけば、貨幣価値(購買力)が目減りするため、株式をはじめとした、よりリスクのある金融資産に運用対象を移す必要がある。証券各社が息の長い成長を確実なものにするには、「貯蓄から投資へ」の流れが本格的に起きることが必要条件となる。

「山高ければ、谷深し」。これは、野村証券のホームページでも「株式相場の世界の格言」として紹介される格言である。市場の活況と好業績の陰に、次なる危機の芽はひそんでないのか。

山田 徹也 東洋経済 記者

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やまだ てつや / Tetsuya Yamada

島根県出身。毎日新聞社長野支局を経て、東洋経済新報社入社。『金融ビジネス』『週刊東洋経済』各編集部などを経て、2019年1月から東洋経済オンライン編集部に所属。趣味はテニスとスキー、ミステリー、韓国映画、将棋。

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