日経平均の急上昇がバブルではない「3つの根拠」 日銀が金融政策変更なら円安になる可能性も

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その理由は賃金上昇率が十分に高まらないからに尽きる。物価上昇率を抑え込むことを目的とする連続利上げは、賃金上昇率が強すぎて金融引き締めを講じる必要が生じたときに実施されるはずである。たとえば賃金上昇率が3%超まで高まり、2%の物価目標達成が脅かされる状況がそれにあたる。

しかしながら、現在の日本の賃金上昇率は約30年ぶりの高い伸びとはいえ、所定内給与(いわゆる基本給に相当する概念)は2%弱の上昇であり、2024年度も同程度の推移が予想されており、インフレ抑制を目的とする連続利上げを必要とする領域には、かなりの距離がある。

現在の賃金上昇率は、マイナス金利という極端かつ副作用の大きい金融緩和策の終了を正当化するには十分な伸びであるものの、その後の連続利上げが必要になる状況が到来するとは考えにくい。ちなみに欧米が果敢な利上げを実施した背景には、極度の人手不足感が生じる下で、労働市場の構図が労働者優位に傾いた結果、賃金が異常値的な上昇を記録したことがある。

「マイナス金利解除で円安進行」もありうる

たとえば2022年央のアメリカにおける平均時給は、前年比6%程度まで高まっていた。そうした賃金由来の高インフレに対して金融引き締めは正しい処方箋と言えるが、日本にそうした状況が訪れる可能性は低いだろう。

そうであれば、日銀の金融政策が日本株の上昇を阻害する可能性は低いと判断される。反対にマイナス金利解除をきっかけに円安が進むという、直観とは逆の展開も想定しておきたい。

それはYCC(イールドカーブ・コントロール=長短金利操作)の修正を実施した2023年7月と10月はその直後に「これでしばらく円高イベントはない」との見方から投機筋が円売りに傾き円安が進行したことから教訓を得たものだ。

仮に、4月25~26日の日銀金融政策決定会合でマイナス金利が解除された際、植田和男日銀総裁が先行きの利上げについて慎重な見解を示せば、その可能性が高まるだろう。円安は日経平均株価採用銘柄の約6割を占める製造業にとって追い風となる。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

藤代 宏一 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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ふじしろ こういち / Koichi Fujishiro

2005年第一生命保険入社。2010年内閣府経済財政分析担当へ出向し、2年間『経済財政白書』の執筆や、月例経済報告の作成を担当。その後、第一生命保険より転籍。2018年参議院予算委員会調査室客員調査員を兼務。2015年4月主任エコノミスト、2023年4月から現職。早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。担当は金融市場全般。

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