優秀なはずの人が戦略を大きく間違える根本原因 日本人は忖度と強要の本当の怖さを知るべきだ

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この決断はどのように下されたのか?

慎重に検討されたものでないことは確かだ。エルファロの船内で、船長と一等航海士の話し合いはあったものの、彼ら以外は話し合いに参加するどころか、話し合いがあることすら知らされていなかった。

方向を確認せずに「続行」する恐さ

おそらく船長と一等航海士には、決断と呼ぶほどのことをしたという認識がなかったのではないだろうか。港を離れる前から、船長はいつもの直進ルートを使うとある程度心に決めていたのだろう。

話し合いの最初のほうで、船長は一等航海士に「今回は耐えるしかないな」と告げた。

これで決断は下された。決まりだ。

この話し合いで決まったことは、「計画を続行する」ということだけだ。直進ルートを選ぶべきかどうかではなく、直進ルートをどのように進むかが議題だったというわけだ。

これはまさに、産業革命期に誕生したやり方のひとつである「続行」だ

「続行」することにとらわれてしまい、深く考えずに無駄な努力をし続ける人は多い。

のちに、その決断はよくなかったと判明すると、船長は「責任感の過熱」に陥った。つまり、一度決めたのだからという理由だけで、破滅を招く行動を最後までやり抜こうとしたのだ。

エルファロはなぜ、嵐にさらされる直進ルートを進み続けようとしたのか?

それが早く着くルートだったからだ。海上を進むだけではお金は稼げない。目的地に到着し、積荷を降ろして初めてお金を稼ぐことができる。

この理由から、商業船舶の船員は、誰もが「時計に従おう」とする

時計に従っていると、人は時間のプレッシャーを感じてしまい、「時間内にやり遂げる」ことが目的化してしまう

時計に従うことの最大のメリットは、集中力が生まれることだ。時間どおりに行動しなければという意識に駆られ、そのおかげでものごとをやり遂げられるようになる。

もちろん、それが本当にやり遂げる必要のあることなら、何の問題もない。だが、時間のプレッシャーはあらゆるストレスをもたらす。そのせいで自分の殻に閉じこもるようだと、視野も狭くなってしまう。

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