VisionPro予約で見えたアップルの"大きな賭け" 大規模投資の先に見据える「独り勝ち」の未来

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大きな賭けであることは確かだ。しかしアップルは、決してリスクが大きいとは考えていないのではないか。むしろ、テクノロジ業界でよりいっそう際立った存在になるために進むべき道だと考えているに違いない。

GAFAMなどの呼び方で一括りにされることの多いアメリカのビッグテックの中でも、この製品プラットフォームを1社だけで構築できるライバルは思い浮かばない。緻密なハードウェアを設計・構築し、独自の販売網とアプリによってオーダーメイドに近い製品をオンライン流通させられる企業が他に想像できるだろうか?

緻密かつ膨大な投資により、やっと到達した空間コンピューティングへの”入り口” に、アップルは躊躇なく飛び込もうとしている。今後も空間コンピューティングの基盤を確たるものにするには、いくつもの困難が待ち受けているだろう。

近年のアップルに足りなかった感覚がある

しかし振り返ってみてほしい。

初代iPhoneが登場したとき、タッチパネルを採用した小さな板状の端末を、世界中の誰もが使うようになると想像した者はいなかった。アップルでさえ、iPhoneがこれほど普遍的存在になるシナリオを語ることはできなかっただろう。

iPhoneを現在の地位に押し上げたのは、ツイッターやUber、モバイル決済などを実現した開発者にほかならない。

開発者たちが想像しうるあらゆるニーズに対応しようと、iPhoneを用いて携帯電話端末に課せられていた制約、限界を崩していったことで、あっという間にiPhoneはわれわれの日常生活の中心的存在となった。

当時と異なるのは、すでにアップルの元には、Vision Proで世の中を変えたいと考えているパートナー各社からの支援が集まり始めていることだ。Vision Proを用いたさまざまなアプリケーションの構想が動き出している。

それらは2次元の静止画や動画で見ても心躍る、ワクワクとした未来を感じさせるものばかりだ。何が次に起きるのか想像できない、期待感に満ちた感覚こそ、近年のアップルに足りなかったものだ。

そしてこの特別な感覚に、最も突き動かされているのはソフトウェアの開発者たちだろう。

世界中の開発者たちからのエネルギー。それこそが新たな未来の成長基盤を創り出すために必要なものであり、彼らの期待に応えることができれば、他社が到達できない大きな優位性を得る礎となるだろう。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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