中国による「工作機械の軍事流用」に日独で意識差 DMG森精機の製品が核開発に転用された疑い

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背景には、中国という巨大市場を前にした不公平感も渦巻く。ある工作機械メーカーの社員は「欧州の企業と比べて競争上、日系メーカーは不利な立場に立たされている」とこぼす。

これらの意見を、輸出規制を管轄する経産省はどう捉えているのか。同省の担当者は「一般論として、制度的な差異がある場合は関係国と改善に向けた議論を進めていく」と述べるにとどまる。

一方、企業側ではハード面の対策が進む。DMG森精機は報道を受けた声明文で、工作機械への「移転防止装置」の搭載を2006年から進めていると説明。顧客に納品した機械が無断で移動された場合、機能が自動停止されて使えなくなるため、不正な転売の抑止に寄与しているとする。

「触れたくない」がメーカーの本心?

ただ、ドイツ子会社でこの取り組みを始めたのは2021年。2016年に子会社化したからか、開始は遅かった。中国向けを対象としたのは今年4月からという。装置の搭載に法的な義務はなく、DMG森精機は「移設検知システムの構築には、多大な努力と人員、手間を必要とするが、工作機械メーカーとしての社会的責任から必要かつ当然の責務だ」と強調している。

東洋経済は輸出管理の詳しい体制について、DMG森精機に取材を申し込んだが、「(声明文に)記載してあることがすべて」との理由で拒まれた。

日本では大手メーカーを中心に、こうした装置の搭載が広がっている。しかし、それなりのコストが掛かることから、取り組みには企業間で濃淡があるという。「装置を付けるインセンティブとして、輸出審査が簡略化されるという措置があるが、それだけでは不十分。ドイツも含めて事実上の義務化をするような仕組みを整えなければならない」(細川教授)。

日経新聞の報道は、現行の輸出管理体制の限界を浮き彫りにした。ただ、工作機械メーカーをはじめ、当事者たちからはこの問題に触れたがらない空気を感じる。取材した中には、「この話は書くな」という業界関係者もいた。

風評被害への懸念は理解できる。でも、それならより一層、情報の透明化を打ち出すべきではないか。そのうえで日工会は政府とオープンな議論を進め、新たな規制のあり方を考える姿勢を見せなければ、業界全体にグレーな印象を抱かれかねない。

言うまでもなく、核兵器はすべての人間にとって脅威だ。メーカーも各国政府も、その前提に立ち返って、今後の輸出管理のあり方を再考してほしい。

石川 陽一 東洋経済 記者

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いしかわ よういち / Yoichi Ishikawa

1994年生まれ、石川県七尾市出身。2017年に早稲田大スポーツ科学部を卒業後、共同通信へ入社。事件や災害、原爆などを取材した後、2023年8月に東洋経済へ移籍。経済記者の道を歩み始める。著書に「いじめの聖域 キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録」2022年文藝春秋刊=第54回大宅壮一ノンフィクション賞候補、第12回日本ジャーナリスト協会賞。

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