3日間で怒濤の展開「OpenAIクーデター」の顛末 寝耳に水のマイクロソフトは思わぬ獲物を得た

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一般に「OpenAI」と言われる組織は、AIの学術研究を行うための非営利法人である「OpenAI, Inc.」のことだ。OpenAI, Inc.は2015年、人類全体に利益をもたらす汎用人工知能(AGI)を普及・発展させることを目標に掲げ、AI分野の研究を行うために設立された。

非営利であるがゆえ株主は存在せず、運営にかかるコストは寄付によってまかなわれていた。当時最大の支援者は共同設立者としても名を連ねていたイーロン・マスクだが、のちにたもとを分かっている。

サム・アルトマン氏のXでの投稿
解任後、OpenAIのオフィスから、ゲスト用のパスを手に「これを付けるのは最初で最後」と投稿した(画像:アルトマン氏のXアカウントより)

そんなOpenAIが現在ほど大きな存在になったのは、2019年に営利部門を独立法人として設け、ベンチャーキャピタルやマイクロソフトといった企業から出資を受けたことで活動資金を得たからだ。当時、アルトマンが資金調達のスキームを描いたとされる。

OpenAI, Inc.は完全子会社であるOpenAI GP LLCの傘下に持ち株会社を設立し、営利企業であるOpenAI, Global LLCを保有している。

持ち株会社の株式は大半をOpenAI GPが保有しているが、一部の投資家や企業、従業員なども少数の株式を保有している。マイクロソフトなどが出資しているのは、営利企業であるOpenAI, Globalに対してであり、OpenAI, Inc.ではない。

マイクロソフトがOpenAI, Globalの株式を49%も保有しながら、アルトマンのCEO解任を事前に知らされていなかった(OpenAIからすれば、知らせる必要がなかった)のは、OpenAI, Inc.の意思決定に関与できる立場になかったからだ。

アルトマン解任支持者の共通点

OpenAI, Inc.の意思決定は、6人で構成される取締役会が担っていたが、解任を含めた人事決定権は取締役会にあり、寄付者にも発言権はない。

報道によれば、アルトマン本人と、同時に社長を辞任した共同設立者のグレッグ・ブロックマン(取締役会会長)を除く4人が、アルトマンのCEO解任を支持したとされる。アルトマン、ブロックマンとともに共同設立者に名を連ねるチーフ・サイエンティストのイリヤ・サツキバーと、3人の外部役員だ。

この4人には共通点がある。OpenAIがAGIを実現し、全人類に等しく利益をもたらすためには、非営利法人としてあらゆる資本や国家から独立した存在でなければならない、というイデオロギーを重視していたことだ。

取締役たちは株主の代表でもなく、ただOpenAIが目標とする、理想的なAGIのあり方というイデオロギーのために行動が起こされたように映る。

出資先がOpenAI, Inc.ではないとはいえ、活動資金の大半を負担してきたマイクロソフトの意向を無視した取締役会の動きを不思議に感じる読者は多いだろう。

しかし、そもそも全人類のためのAGIという理想を実現するためにも、“非営利であることに価値がある”と考えるOpenAIの傘下に、巨額のビジネスが動く(動かさざるをえない)営利企業が存在し、その活動資金を支えるという構造自体に矛盾がある。今回の解任劇がなかったとしても、いずれその矛盾と向き合う必要はあったのだろう。

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