「後手に回らざるをえない台湾有事」に必要な戦略 トルコ元首相提唱「地理的歴史的深みの次元」

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言葉づかいはかなり晦渋ですけれども、要するに、現在の世界政治のアクターであるすべての政治単位は、それぞれに「自分は地理的にどこを棲息地と定めているのか」「自分はどのような歴史的召命を果たすべく存在するのか」についての深みのある集合的意識を「思考の下部構造」としているということです。

その下部構造(定数)と、その政治単位が採用している現実の政策(変数)とが合致すると、その集団は大きな力を発揮し、ずれるとさっぱり力が出ない。ダウトオウルはこの「定数と変数を一致させる努力」のことを「戦略」と呼びます。どれほど軍事力があっても、経済力があっても、「戦略的に思考せず、戦略計画と戦略意志を強く一貫して行動に移さない国家は、国力を活かすことはできない」(前掲書、25頁)。

国家の趨向性

僕はこのダウトオウルの意見に全面的に同意します。僕はダウトオウルが「定数」と呼ぶものを「趨向性」と呼んでいます。あらゆる国家、民族、集団は固有のコスモロジーに基づく、固有の趨向性を持っている。その趨向性と現実の政策が合致すると、爆発的な国民的エネルギーが解発される。合致しないと(政策そのものが外見的には整合的であっても)努力は虚しく空を切って、何の果実ももたらさない。

アメリカにはアメリカの趨向性(あるいは戦略)があり、中国には中国の趨向性(あるいは戦略)がある。それを見分けることができれば、彼らが「なぜ、こんなことをするのか?」、「これからどんなことをしそうか?」について妥当性の高い仮説を立てることができる。

内田 樹 思想家、武道家、神戸女学院大学名誉教授

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うちだ・たつる

1950年東京都生まれ。思想家、武道家、神戸女学院大学名誉教授。東京大学文学部仏文科卒業、東京都立大学大学院博士課程中退。専門はフランス現代思想、武道論、教育論、映画論など。凱風館館長、多田塾甲南合気会師範。著書に『ためらいの倫理学』(角川文庫)、『レヴィナスと愛の現象学』(文春文庫)、『私家版・ユダヤ文化論』(文春新書、第6回小林秀雄賞受賞)、『日本辺境論』(新潮新書)、『街場の天皇論』(東洋経済新報社)などがある。第3回伊丹十三賞受賞。

 

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