「後手に回らざるをえない台湾有事」に必要な戦略 トルコ元首相提唱「地理的歴史的深みの次元」

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とりあえず僕たちにできるのは観察と予測くらいです。この2つの超大国がどういう統治原理によって存立しているのか、短期的な政策よりも、基本的にどのような趨向性を持っているのか、それをよく観察して、世界がこれからどういう方向に向かうのか、どのような分岐点が未来に待ち受けているのか、それを見るくらいです。

トルコ元首相の「戦略思考」

僕たちは素人ですから、米中国内でいま何が起きつつあるか、軍事的、外交的、経済的な最新情報についての知識は専門家にまったく及びません。でも、不断に更新される最新情報とは直接かかわりのないところで一貫性を維持して、その国の行方を決定している「戦略的思考」についてはそれなりの知識を有しています。

トルコの外相、首相であった国際政治学者アフメト・ダウトオウルは一国のふるまいを理解するためには「地理的歴史的深みの次元」に達することが必要だと書いています。ある国家・民族が何を感じ、何を考え、どうふるまうかを決定するレイヤーがあります。ダウトオウルはそれを「戦略思考」と呼びます。

「民族の戦略思考とは、文化的、心理的、宗教的、社会的価値世界も含む歴史的伝統とその伝統によって作り出され、それが反映された地理的生活領域の共同産物としての意識と、その民族が世界の上でいかなる位置を占めるかについての見方の産物である。(…)自民族の地理的位置を軸とする空間把握と、自己の歴史的経験を軸とする時間把握は、内政の方針と外交政策形成に影響する思考の下部構造である。」(アフメト・ダウトオウル『文明の交差点の地政学─トルコ革新外交のグランドプラン』中田考監訳、内藤正典解説、書肆心水、2020年、68─69頁。太字部分は筆者)

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