ヒルトンの「旅館見下し動画」大炎上も当然の理由 有名ブランドが比較広告を出す危うさ

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ちなみに「比較広告」そのものは、日本でも認められているが、内容は厳しく定められている。消費者庁ガイドラインでは「比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること」「実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること」「比較の方法が公正であること」が求められ、そのハードルは海外よりも高い印象を受ける。

日本の国民性や昨今の時代背景に合わない

加えて、日本独自の「倫理観」もある。個より和(集団秩序)を重んじる国民性には、そもそも比較広告は馴染まないのではないか。昨今の「傷つけない笑い」が受け入れられる時代背景にも合わない。

そして、まさにその「和」の象徴である「旅館」のステレオタイプを強調し、あげつらった印象を与えてしまった。「国内資本vs外資」の対立軸に持ち込まれてしまえば、ヒルトン以外の外資系ホテルにも悪印象を及ぼし、業界全体に影響が出かねないのではないか。

今回のキャンペーンは「ホテルでの体験」を重視する目的で行われた。ではそもそも、宿泊客は高級ホテルに、どんな体験を求めるのか。問題の動画でも描かれているような、浮世を離れた「非日常」に、顧客は対価を支払うのではないか。そう考えると、本来は「弊社だからこそのオリジナリティ」を売りにするビジネスモデルであり、類似業者と比較する広告は合わない。

仮に、他者との差別化を描くとしても、違いは「ディナーの融通が利く」だけではない。宿泊客のニーズは、周辺観光地へのアクセスから、眼下に広がる絶景、ゴージャスな装飾品……。人によってさまざまだ。日本であれば、「温泉」もポイントになるだろう。

当然ながら、旅館にもメリットはある。食事が部屋ごとに配膳されたり、不在時に布団を敷いてもらったり。これらを「おもてなしが行き届いている」と感じる人もいるはずだ。長所にもなる特徴に触れずに、「時間に縛られる」の一点のみで突破しようとした印象を残したのは、今回の動画の残念な点だった。

次ページ消費者にジャッジを委ね、客観的に判断してもらう手法
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