インドネシア高速鉄道、愛称「ウッス」開業後の姿 富裕層が車から転移、在来線特急も根強い人気

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そこで、往路は比較として在来線特急でバンドンへ向かった。特急「アルゴパラヒャンガン」号はジャカルタ―バンドン間の大動脈で、コロナ禍前には1日最大20往復が設定されていたほどの需要があり、現在も定期列車で10往復が設定されている。

特急アルゴパラヒャンガン
高速鉄道の高架をバックに走る在来線特急「アルゴパラヒャンガン」(筆者撮影)

しかし、この特急の一般的な「エグゼクティブクラス」の料金は25万ルピア(約2400円)で、実は高速鉄道よりも高い。もちろん、高速鉄道に割引料金が適用されているから起きている逆転現象であるが、正規料金でも30万ルピア(約2880円)の予定のため差額はわずかだ。

これではほとんどの利用者が高速鉄道に流れそうに思えるが、在来線特急も相変わらずの人気を誇る。さすがに1週間前に全列車満席になることはなくなっていたが、金曜の時点で土曜の下り、日曜の上りはほぼ満席だった。高速鉄道のほうは開業直後のフィーバーともいえる状況であるものの、明らかにジャカルタ―バンドン間の移動需要そのものを喚起していることがわかる。

高速鉄道のメリットを享受する在来線駅

出発日の朝、在来線特急の始発駅ガンビルの駅前ではパレスチナ救済を訴えるデモが行われており、少し到着が遅ければ渋滞に巻き込まれ、列車に間に合わなかったかと思うとヒヤッとした。大統領宮殿に諸官庁、各国大使館などが集まるガンビル周辺ではこのようなことがしばしば発生し、道路が閉鎖される。あまりに規模が大きいときは、特急を近隣のジャティネガラ駅に臨時停車させて利用者への便宜を図っているほどである。高速鉄道の始発駅が郊外のハリムに設けられた意義を改めて感じた。

ガンビル駅 アルゴパラヒャンガン号
特急「アルゴパラヒャンガン」号に乗車する乗客たち(筆者撮影)

乗車するガンビル6時30分発の「アルゴパラヒャンガン」38列車は、週末をバンドンで過ごす行楽客でいっぱいで、エグゼクティブ、プレミアムエコノミーいずれも満席である。この列車はもともとジャティネガラにも停車するが、その先はバンドン側のチマヒまで止まらない。チマヒには9時03分、終点バンドンには9時15分の到着である。筆者はチマヒまで乗車した。

アルゴパラヒャンガン号の車内
特急「アルゴパラヒャンガン」号の車内。高速鉄道が開業しても乗車率に大きな変化は見られない(筆者撮影)

高速鉄道の開業で一番得をした駅はどこか?それは、このチマヒである。チマヒ市は、人口約250万人を誇るバンドン市の西側に位置し、その後背地として発展。バンドン都市圏の一角を占めている。駅周辺は閑静な住宅地であるが、宅地は山のすそ野までずっと張り付くように広がっている。また、すぐ近くには高速道路のインターチェンジもあり、各地への移動の便がよい。

バンドン周辺路線図
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