タムロン「私的飲食に経費流用」社長の崩壊モラル 前社長から続いた「クラブでの単独飲食も経費」

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実際、小野氏も2013~2018年にかけて、単独での飲食費1億2290万円を会社に精算させていた。2016年に相談役に退いた後も飲食費を会社負担としていたことになる。「会社の経営に口出しをしたくてもそれをがまんすることによるストレスがあり、それを発散する必要がある」。小野氏はそう正当化した。

「役員であれ従業員であれ、およそ仕事というものは大なり小なりストレスを伴うものであり、そのストレスの発散は個々人の費用で賄うべきものであって、社長だから会社経費にできるというに及んでは開いた口が塞がらない」。調査委は両氏の主張をばっさり切り捨てている。

「鯵坂氏が、社長として、タムロンにおいて誰よりも多額の報酬等を支給されていたことをまずもって想起すべきである。業務を伴わない食事や飲食などでのストレス発散は、自身の報酬で行うべきであることはいうまでもない」

調査委のこの指摘も至極当然だ。実際、2019年以降、鯵坂氏は役員で唯一1億円以上の報酬を得ていた。

暴走を許した「社長領域の聖域化」

鯵坂氏と小野氏の歴代2社長の暴走はなぜ止められなかったのか。

タムロンでは、取締役と監査役が使用する経費については、秘書室が予算策定と管理を担っていた。前年度実績を参考に秘書室長が予算を策定していたが、鯵坂氏が秘書室長に自己の意向を伝えて予算に反映させていた。予算の内容を把握するものは秘書室長を除いていなかった。取締役会でも予算や支出に関する詳細な報告はされていない。

そもそも社内飲食費については、1回あたりの金額の目安や上限額などがルール化されていなかった。支出が適正かどうかの判断は、最終的な決裁権者である社長のモラルに委ねられていたが、肝心の鯵坂氏、さらには小野氏のいずれにもモラルが欠けていた。

暴走を許した大きな要因の一つとして、調査委は「社長領域の聖域化」を指摘している。小野氏と鯵坂氏の経営実績が十分であったためか、「社長に近ければ近い立場の者ほど、社長に対して意見を述べられない、あるいは社長に対する意見は黙殺すべしとの風潮があったとの感を抱くに至った」としている。

社内飲食費をめぐっても忖度が働いた。経理部門は費用の計上があまりに多い部署に対しては「何のための飲食なのか」と問い合わせたが、社長を含め役員に対しては経理部門がそのように指摘できなかった。結果、役員以外の社内飲食費は減った反面、役員による多額計上が続いた。

調査委は、内部通報が適切に取り扱われたこと、社外取締役が主導して現監査役とともに先行調査を行い、終始一貫して鯵坂氏に毅然とした態度を示したことなどをもって、「タムロンは自浄作用を発揮することができた」と評価する。今後は鯵坂氏などに損害賠償を求めるかが焦点だ。

ただ、株主はどう考えるのだろうか。大株主にはソニーなど業界関係者に加え、現在約10%の株を保有するエフィッシモ・キャピタル・マネージメントも名を連ねる。

エフィッシモは保有目的を「純投資」としているが、旧村上ファンド系であり物言う株主としても著名なだけに、今後の動きは読めない。後任の桜庭省吾社長は社内外の信頼を回復していけるのか。

吉野 月華 東洋経済 記者

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よしの・つきか / Tsukika Yoshino

精密業界を担当。大学では地理学を専攻し、微地形について研究。大学院ではミャンマーに留学し、土地収用について研究。広島出身のさそり座。夕陽と星空が好き。

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