習近平が消した中国「もう1つの道」李克強の無念 心臓発作で急死、影が薄かった首相の10年間

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この場では、市場機能の重要性を強調しつつ、「市場の見えざる手と、政府の見える手の両方をうまく使う」として、政府による市場への介入をよしとするロジックが打ち出された。同時に習主席をトップとする「全面改革深化指導小組」が共産党に設立され、李克強氏の求心力は大きくそがれた。

その後は李克強氏が率いる国務院(内閣)が地盤沈下し、共産党への一極集中が進んだ。習主席の権力が圧倒的に強くなるなかで、李克強氏の活動領域は起業振興キャンペーンなどの周辺分野に追いやられた。

ときどき中国経済の現状に警鐘を鳴らすかのような発言が注目されたが、それが習主席との力関係を変えることはなかった。習主席の一極体制のもとで、中国では国有企業の育成を重視する社会主義的な色彩の強い経済運営が定着した。

見せ場がなかった10年間

2013年の「三中全会」以来、李克強氏に見せ場は与えられずじまいだった。今、その重要会議の開催タイミングがまた近づいている。今回、首相の任にあるのは李強氏。習主席の浙江省在勤中に秘書を務め、気に入られた人物だ。

李強氏は上海市党書記に抜擢されてからは、上海証券取引所への新市場創設や、アメリカの電気自動車メーカー・テスラの工場を誘致するなどの実績を残した。しかし中央政府での経験は皆無で、就任後も独自のカラーは感じさせない。

2022年に総人口の減少というエポックを迎え、成長力低下のもとで不動産不況に揺れる中国。この難局にあって、結局のところ必要な改革のメニューは「2030年の中国」で示されたものとあまり変わっていない。この10年を空しく過ごしたことは李克強氏にとって無念だっただろうが、中国、ひいては世界にとっても悲劇的だった。

西村 豪太 東洋経済 コラムニスト

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にしむら ごうた / Gota Nishimura

1992年に東洋経済新報社入社。2016年10月から2018年末まで、また2020年10月から2022年3月の二度にわたり『週刊東洋経済』編集長。現在は同社コラムニスト。2004年から2005年まで北京で中国社会科学院日本研究所客員研究員。著書に『米中経済戦争』(東洋経済新報社)。

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