ミネベアミツミが「体験型ミュージアム」開く狙い 製造業離れに危機感、部品の面白さを伝える

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説明用パネルに登場するオリジナルキャラクター「クロスレンジャー」。「クロス」には技術や人材を掛け合わせて新しい付加価値を作るといった意味合いが込められている(記者撮影)

貝沼氏は「かなり踏みこんだ内容のものを作った。われわれにはこれ以上はできない(というぐらいの完成度)」と自画自賛する。設立にかけた費用は非開示としている一方、「めちゃくちゃ高くもないが、安くもない」(貝沼氏)という。

「縁の下の力持ち」からの脱却

同社の担当者によると、施設の構想から完成までに約1年かけ、展示の内容や企画についての会議を30回以上も開催。その全てに貝沼氏が自ら出席し、陣頭指揮を執った。まさに肝煎りと言える事業で思い入れは強い。貝沼氏は9月27日、報道陣向けの内覧会と共に記者会見を開き、こう訴えた。

ミネベアミツミの貝沼由久・会長兼CEO。ミュージアム作りでも陣頭指揮を執った(記者撮影)

「わが国の出生数は80万人を切っている。これからも少子化は進んでいく。社会の将来を見据えたときに、ものづくりに携わる者として大変な危惧をしている。多くの企業が人手不足に陥り、技術者は高齢化。子どもの理系離れ、製造業離れは顕著だ。部品の大切さを知っていただきたい。そして、興味を持っていただきたい」

「(展示でこだわったのは)感動を与えること。子どもが来て、ワーッとなる。楽しかったね、という思い出と共に帰ってもらい、親御さんにも満足していただきたい」

ミュージアムのほかに、地下1階には試作部品の加工や分析を見学できる設備を作った。3Dプリンタや切削加工機械などが立ち並ぶ部屋がガラス張りとなっており、白衣姿のエンジニアが開発に取り組む姿を間近で観察できる。

ほかにも、ものづくりに関する書籍や技術書を貯蔵する資料館、プロジェクターやスクリーン付きの多目的ホールも整備し、学校の校外学習などで幅広く使えるようにした。

自動車のどこに自社製部品が使われているかをわかりやすく展示する(記者撮影)

今後、誘致活動を積極的に行い、年間で約1万5千人の来訪を目指す。同社の担当者は「ゆくゆくは修学旅行における東京の名所にしたい」と意気込む。子どもだけでなく、エンジニアの卵である就活生へのアピールにも活用していく方針という。

さまざまな産業や人々の暮らしを支えている一方、普段は目にする機会が少なく、一見すると「地味」と思われがちな部品業界。世間の注目も自動車や家電など、触れる機会が多い最終製品のメーカーにいきがちだ。

「もう縁の下の力持ちはやめよう。前に出ていかないと、余計に人が集まらなくなる。世界に日本の部品メーカーがどれだけ素晴らしい商品を供給しているか。その強さをアピールしていく」(貝沼氏)。新しいミュージアムは、同社の姿勢の変化を表しているともいえそうだ。

(見学予約は同社のウェブサイトから受け付けている)

石川 陽一 東洋経済 記者

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いしかわ よういち / Yoichi Ishikawa

1994年生まれ、石川県七尾市出身。2017年に早稲田大スポーツ科学部を卒業後、共同通信へ入社。事件や災害、原爆などを取材した後、2023年8月に東洋経済へ移籍。経済記者の道を歩み始める。著書に「いじめの聖域 キリスト教学校の闇に挑んだ両親の全記録」2022年文藝春秋刊=第54回大宅壮一ノンフィクション賞候補、第12回日本ジャーナリスト協会賞。

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