「きのう何食べた?」にこんなにも情が湧くワケ 「何食べ」は令和版の「サザエさん」になった

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それが、オープニングのスマホで映した、ある日のある時間の出来事に集約されている。ただ、流れていく時間を愛おしく思う感覚がそこにはある。西島と内野はその瞬間の、相手への圧倒的な信頼と心をゆるした幸福感をみごとに演じている。

「老い」もしっかりと描いている

穏やかで幸福な日々が永遠に続けばいい、ということを希求する『何食べ』が秀逸なのは、そこに老いを描いていることだ。漫画連載当初は40代だったシロさんとケンジもいまや50代になって、ビジュアル面が変化し、ものごとに対する考え方も年相応に変化している。ドラマもそこを描いている。

例えば、『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』などの息の長いホームドラマは、登場人物があまり年をとらない。ずーっと同じ日々を送っていて、日常生活で起こる出来事には共感しても、1年サイクルで、毎年、ほぼ同じことを繰り返しているので、いつしか読者や視聴者が世代交代していく。それこそが長く続ける秘訣でもあるのだ。

『何食べ』は『サザエさん』とは違い、登場人物がリアルに年をとり、読者も共に年をとっていく。登場人物と同じように風貌の変化やこれからの暮らしについて思いを致し、そこにリアリティーがついてくる。俳優が子供から大人へ、リアルに年をとっていった『北の国から』シリーズのようなものであろうか。時間の流れを共に過ごすことでいっそう情が湧くのである。

男同士のわちゃわちゃした日々を理想郷のように描いていない。それは男性同士の恋愛の形に対して、逆に偏見をもって見ないということでもあろう。

シロさんとケンジは、時々、同じく同性同士のパートナー小日向大策(山本耕史)とジルベールこと井上航(磯村勇斗)と交流することで、いずこも悩みはあることを共有することもある。少数派として団結もするが、そこには微妙な感情もあって、目を離したすきに浮気しないか気にしたりもする。

シロさんにとってケンジは実は好みのタイプではなかったが、なぜか惹かれ合ってしまっていまに至っている。シロさんは周囲に自分の性嗜好を明かしていないが、ケンジは彼がいることを公言している。ひとくくりにはできない。みんなそれぞれ違いがある。

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