国が控訴「水俣病訴訟」本質は食中毒事件の新見解 環境省は「科学ではない」と大阪判決を問題視

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水俣の漁港近くで生まれ育ち、母親は魚をたくさん食べていた。中学生の時、学校の先生から「水俣病の健診を受けませんか」と言われたが、受けなかった。「水俣病とはどういうことか、中、高校生のころはその現実を知らずにいた」と坂本さんは振り返る。水俣病は当初、伝染病、奇病と呼ばれ、偏見が残っていた。重症に見えない患者さんの症状への無理解から、「金欲しさ」との陰口も聞かれた。

大阪地裁の判決が出た訴訟は、熊本、大阪、新潟、東京で起こした集団訴訟「ノーモア・ミナマタ第2次訴訟」の一つ。次は、来年3月に熊本地裁で判決が言い渡される。大阪地裁判決を受けた控訴審も進み、法廷での争いは続く。

恒久的な対策で不安をカバーできないか

坂本さんはこう考える。「特措法による救済が行われたが、家族に何等かの影響を及ぼすのではないか、とかいろいろなことを考えて、申請期限までに手をあげきれなかった人もいるのではと思うんですよね。今回の判決を受けた原告のなかには特措法の対象地域外の人たちがいて、判決で賠償が認められたわけでしょう。症状を自覚している人が一定の割合でいらっしゃる。高齢化してくると、そのへんが不安材料になっていく。時限的な立法ではなく恒久的な対策により、そうした不安をカバーできないか」。

「国や県が初期対応をきちっとやっていたら、ここまで被害が拡大することもなかった」(坂本さん)と、誰もが思う。それでも政治や行政は、公式確認から67年を経た今も未解決の状態が続いているという現実に向き合う必要がある。

なぜか。坂本さんは言葉を絞り出した。「水俣病は人が引き起こした事件ですから、人によって解決し、教訓として生かすということをやっていかなければならない」。

河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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