自動車業界、日米で労使関係がこんなにも違う謎 アメリカではスト、"協調"の日本は関心が低下

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「先々を見通すことが難しい状況だからこそ人と人とのつながりを生かし、誰かのために何ができるのかを考えて行動し、一丸となり組合活動を前進させていこう」

9月末に開かれたトヨタ自動車労働組合の定期大会で、新たに就任した鬼頭圭介執行委員長はそう強調した。約6万8000人が所属するトヨタ労組にとっては6年ぶりのトップ交代となる。今期は処遇改善や職場課題の解決といった労働条件の維持改善に加えて、組織内コミュニケーションの基盤強化などに取り組む方針を示した。会社に対して敵対的な発言はなく、落ち着いた雰囲気で大会は終了した。

労使関係が良好なのはトヨタに限った話ではない。2023年の春闘では、トヨタ、ホンダ、日産自動車といった自動車メーカーの経営は、労組が要求した賃上げと一時金ともに満額で回答した。トヨタとホンダでは2月中に回答する異例の早さだった。”労使一体”はもともと日本メーカーの特徴ではあるがより鮮明になっている。

組合員に無関心が広がっている

日本の労働組合は、原則として国内従業員が対象。アメリカにおいては、現地法人の従業員はUAWに加盟しておらず、今回のストによる直接的な影響は今のところ出ていない。

トヨタ労組幹部も「今のところ目立った影響は聞いていない」と話す。「ビッグ3よりも従業員の待遇は上回っている」との声もトヨタ内部ではあり、日系メーカー側にその余波が大きく波及するとは見ていないようだ。

だからといって悩みがないわけではない。トヨタ労組によるアンケートによると、組合活動について関心があるかという問いに対し「いいえ」「どちらとも言えない」と回答した比率、組合活動が職場での課題解決につながっているかという問いに「いいえ」「どちらとも言えない」と回答した比率は約6割に達する。

トヨタ労組側はこうした状況を踏まえて、「先行きが不透明なこの時代に、変化に追従するだけでなく組織としてありたい未来を描き、方向性を示す必要がある」と指摘する。今期は、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)と呼ぶ中期方針を策定した。

ホンダが早期退職制度で数千人の人員削減をするなど、経営環境の変化に伴い、日本の自動車業界でも人材の新陳代謝が活発化している。変革期に組合としての存在価値をどう示していくのか。アメリカでの出来事は決して対岸の火事ではなく、日本の自動車業界全体で今後問われそうだ。

横山 隼也 東洋経済 記者

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よこやま じゅんや / Junya Yokoyama

報道部で、トヨタ自動車やホンダなど自動車業界を担当。地方紙などを経て、2020年9月に東洋経済新報社入社。好きなものは、サッカー、サウナ、ビール(大手もクラフトも)。1991年生まれ。

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