欧米で承認された新薬の7割が日本で使えない訳 「ドラッグロス」日本で承認されない薬が増加

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一方、足元でドラッグロスが生まれているのは、希少がん向け治療薬など対象患者数は少数でも効果が期待できる薬を創ろうと、ベンチャーが果敢に挑戦するケースが増えたことが背景にある。

製薬業界では、2000年ごろを境に抗体医薬や細胞療法といったバイオ薬の技術開発が急速に進んだ。

欧米の大手製薬企業では新薬開発をベンチャーに依存するケースが増えた。が、こうした創薬を推進するシステム作りが日本では遅れ、欧米の後塵を拝することが増えた。

海外のベンチャーが日本を後回しにする大きな理由は、治験制度だ。日本では、日本人が治験に参加していないと薬は承認されない。一方、米国で承認されれば自国での治験を行わなくても承認される国もある。資金が潤沢ではないベンチャーは、米国での治験のみで元が取れるため、わざわざ日本で治験を行う動機が少ない。

日本はコストがかさみがち

また日本は、病院数が多いなどの理由で治験を行うコストがかさみがちだ。「アジア圏ならば治験がよりしやすい韓国や台湾が治験先に選ばれることが増えている」(国内製薬企業の研究開発責任者)との声もある。

日本の治験の壁を越える策の1つとして、製薬ベンチャーを大手製薬企業が買収する方法があるが、ここにも壁がある。日本の新薬の値段が、薬価制度によって年々下がっているのだ。米製薬企業が加入する業界団体「PhRMA」は、日本の薬価制度が新たな投資の阻害要因になっているとして、制度の見直しを求めている。

現在、厚生労働省の創薬力強化に関する有識者会議では、日本人の治験なしでも薬を承認する案が議論されている。ドラッグロスが解消されれば短期的には患者への利益になるが、日本の創薬力が向上しない限り海外企業への依存が続くことになる。

兵頭 輝夏 東洋経済 記者

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ひょうどう きか / Kika Hyodo

愛媛県出身。東京外国語大学で中東地域を専攻。2019年東洋経済新報社入社、飲料・食品業界を取材し「ストロング系チューハイの是非」「ビジネスと人権」などの特集を担当。現在は製薬、医療業界を取材中。

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