今夏の記録的猛暑は「温暖化」なしで起きなかった 今田由紀子・東大准教授に聞く、最新研究の成果

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――9月19日の発表では、猛暑だけでなく、6月から7月上旬に西日本で発生した線状降水帯に伴う豪雨、7月9日から10日にかけて九州を見舞った大雨についてもイベント・アトリビューションに基づくシミュレーションを実施しました。前者については、6月から7月上旬の日本全国の線状降水帯の総数が、地球温暖化の影響がない場合と比べて約1.5倍に増加していたと見積もられました。後者では7月9日から10日に発生した九州北部の大雨を対象に地球温暖化の影響を評価したところ、総雨量が約16%増加していたことが確認されたと発表しました。

図2 2023年6月から7月上旬にかけての線状降水帯の発生数(出所:図1と同じ)

前者についてはシミュレーションの結果を示した地図(図2 ③変化)にあるように、地球温暖化の影響がない場合と比べて、九州地方で線状降水帯の発生数の増加が顕著になっている。後者に関しては九州北部での降水量の顕著な増加が見て取れる(図3 ④変化量)。

研究の精度を高め、被害の軽減に役立てたい

――イベント・アトリビューション手法に基づく研究結果を、どのように社会に役立てることを期待していますか。

温室効果ガスの排出を減らす努力を加速するとともに、避けられない気候の変化に対してはいかに適応していくかを考えなければならない。

前者については、国や地方自治体レベルで排出削減のための施策が強化されるとともに、世論が変わっていく必要がある。

図3 2023年7月9日から10日にかけての大雨事例のシミュレーション(出所:図1と同じ)

後者については、水害対策や熱中症予防対策などの強化が求められる。日本の自治体は水害対策に積極的に取り組んでおり、世界的に見ても遅れているということはない。それでも防げない被害もあるので、個々人が備えをしておくべき。猛暑のときには屋外でのスポーツを見合わせるとか、運動会の時期をずらす、勤務時間を変えるといった手立ても必要になる。異常気象への備えをすることで被害はかなりの程度、防ぐことができる。

――今後、どのような目標を持って研究を進めていきますか。

洪水の発生確率や浸水面積がどのくらい変わるか、農作物への影響がどうなるかなど、より人々の生活に直結するようなテーマに関して、イベント・アトリビューションを通じて結果を示していきたい。猛暑で言えば、熱中症による救急搬送件数がどのくらい増えてしまうかといったことが考えられる。

もう1つは分析の解像度を上げていく必要がある。たとえば日本のある特定の地点の気温がどう変わるかといった課題についてのイベント・アトリビューションへの期待は大きい。遠くない将来にそうした分析の結果も出せるようになるかもしれない。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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