まるで戦後?「質素すぎる給食」議論起きた諸事情 1食あたり「240円」だと仕方ない気も…?

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(4)給食費無償化が話題

加えて、昨今は「給食費無償化」の議論が盛り上がっている。比較的財源に余裕のある自治体を中心に、公立学校への支援開始が相次ぎ、政府も6月に打ち出した「こども未来戦略」で、前向きな姿勢を見せた。同戦略では、各地の実態調査を経て、1年以内に結果を公表。実施状況や法制面などの課題整理を行ったうえで、具体的方策を検討するとしている。

学校給食は、日常生活に密着している。にもかかわらず、それぞれの「経験」は微妙に異なる。SNSのタイムラインで、その差が可視化されることによって、「語るキッカケ」を与えられる。そして、政治的背景が加わることで、より感情を帯びていく——。おそらく今回の拡散事案は、これらの要素が複合的に絡んだ結果、広がっていったのではないかと、筆者は考えている。

給食現場で働く人々は、試行錯誤を重ねている

こうした事情もあって、インターネット上で「給食ネタ」は盛り上がりやすい。そこへ来て、今回のように「量が多い」「少ない」といった、論点が単純化された内容は、波が広がりがちとなる。一方で忘れてはならないのは、栄養士といった給食現場で働く人々は、限られた予算のなかで、試行錯誤を重ねていることだ。

今回やり玉に挙げられた自治体では、2023年度の給食費が、小学校の場合は1食あたり240円前後に設定されていた。そのうち約70円は牛乳代が占め、50円台の主食と、110円台のおかずで構成される(ちなみに、この自治体の中学校給食費は1食300円だが、今年度から無償化が行われている)。

参考までに、先に紹介した文科省の「学校給食費調査」では、公立小中学校における保護者負担の給食費(完全給食)が、小学校は月平均4477円、中学校は5121円となっていた。だいたい20日で割ってみると、小学校が約224円、中学校が約256円となる。

この枠に収めながらも、なるべく栄養バランスを保ちつつ、バリエーション豊かな献立を用意できるよう、関係者は常々考えていることだろう。実際、自治体公式サイトの献立表を見てみると、話題になった給食も、他の日と同水準の約600キロカロリーとなっていた。

イメージやノスタルジーも大切だが、そこに最新データをかけ合わせると、新たな発見が生まれる。もしかしたら今回の「質素な給食騒動」は、教育の今について改めて考える、いい機会になったのかもしれない。

城戸 譲 ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー

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きど・ゆずる / Yuzuru Kido

1988年、東京都杉並区生まれ。日本大学法学部新聞学科を卒業後、ジェイ・キャストへ新卒入社。地域情報サイト「Jタウンネット」編集長、総合ニュースサイト「J-CASTニュース」副編集長などを経て、2022年秋に独立。炎上ウォッチャーとして「週刊プレイボーイ」や「週刊SPA!」でコメント。その他、ABEMA「ABEMA Prime」「ABEMA的ニュースショー」などネット番組、TOKYO FM/JFN「ONE MORNING」水曜レギュラー(2019.5-2020.3)、bayfm「POWER BAY MORNING」などラジオ番組にも出演。政治経済からエンタメ、炎上ネタまで、幅広くネットウォッチしている。
X(旧ツイッター):@zurukid

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