西武が小田急・東急の「中古車両」を導入する狙い 大手私鉄間では異例の譲受、車両更新費用節約

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鉄道ファンからは、塗装車両の小田急8000形が「黄色い西武電車」に塗り替えられたら面白い……といった声もあるが、現時点では車両の内外装の変更については未定だ。ただ、東急9000系は5両編成のため、西武で4両編成として運行するには1両減らす必要がある。また、西武秩父線の普通列車は現在、2ドアでボックスシート、トイレ付きの4000系で運行しており、4ドアでロングシート、トイレなしの9000系は大幅に仕様が異なる。座席はロングシートのまま投入される予定といい、ボックスシートに慣れた利用者にはややサービスダウンと受け取られるかもしれない。

西武秩父線の2ドア車4000系
西武秩父線の2ドア車4000系も置き換えの対象だ(撮影:大澤誠)

中古車の有効活用で車両を一新

大手私鉄では異例の中古車両導入を進める西武だが、実は過去にも譲渡車両で「戦力強化」を図った歴史がある。第2次世界大戦後の混乱期、輸送力の増強を図るために旧国鉄の中古車両や戦時中に被災した車両の復旧車などを数多く投入、その後に到来する高度成長期の大量輸送と近代化への道を拓いた。

また、西武はこれまで、引退した車両をグループ各社をはじめとする各地の地方私鉄に数多く譲渡し、廃棄せず有効活用を図ってきた。西武の中古車を導入して保有車両の近代化を図った鉄道も少なくない。今度は、西武が他社の中古車によって車両を一新する番だ。

近江鉄道 元西武新101系
近江鉄道(滋賀県)に譲渡された西武101系。西武の引退車両は全国各地のローカル私鉄で活躍している(記者撮影)

今回導入する東急・小田急の車両は製造からすでに30~40年経っており、省エネ車であるとはいえ、そう遠くない将来に再度置き換えの必要が生じることは十分予想される。だが、さまざまな分野でリユースやリサイクルの重要性が叫ばれ、かつコロナ禍による環境の変化でコスト削減が重要な課題となっている鉄道業界において、大手同士の車両譲受は新たな選択肢となるかもしれない。

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小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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