「半導体人材を育成せよ」九州は産学官で総力戦 TSMC誘致で「年間1000人不足」自前で育てる事情

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九工大で半導体を製作する高専の教員(記者撮影)

参加した熊本高専の大塚弘文教授(ロボティクスが専門)は「自分の研究領域と半導体との接点を知れた。今後はより迫力ある講義ができる」と充実の表情だった。

講座は毎回のように定員に達する人気で、Zoomを用いた遠隔セミナーも2020年に開始。初年度の受講者は12人だったが、メーカーの新人教育などの利用が増え、2023年度は約800人を見込む。

好評の要因について、中村和之センター長は「ウチの設備は約30年前のモデル。古いことが研修ではメリットになった」と語る。最新鋭の工場で稼働している装置は自動化が進み、製造工程がブラックボックス化。手動での操作を要し、機械の内部を確認できる旧式のほうが、仕組みや原理を深く学ぶには適するという。

2024年度には、遠隔と実習を交えた3~6カ月ほどの長期コースも開設予定。半導体の設計から実際の製造まで、一連の過程を味わってもらう。未経験者でもゴールにたどり着けるよう、教員が丁寧にサポートする方針だ。

ほかにもリスキリング(社会人の再教育)によって、人材供給を増やす試みが官民で広がる。その背景には、足りない職種を配置転換で賄おうという動きや、他業種からの転職組とU・Iターン希望者を取り込もうという思惑がある。福岡県は8月、「福岡半導体リスキリングセンター」を福岡市に設置。対面とeラーニングの両方で、基礎から応用までを学べる講座を始めた。

カリキュラムは地元企業へのヒアリングを基に作成し、現場で必要な技能の伝授に注力。テストに合格すると修了証をもらえる。すぐの独り立ちは難しくても、就職先でのOJTに堪える素地を備えた証明となる。福岡県の中小企業は無料で利用でき、5年間で延べ2万5000人の受講が目標だ。

人材派遣会社の競争も激化

設備の操作やメンテナンスを担う職種は、研究開発者などと比べて必要な専門知識が少ないとされる。工場の稼働には不可欠な存在で、派遣会社が育成を競い合っている。

人材派遣大手アウトソーシングは4月、半導体に特化した子会社OSナノテクノロジーを設立し、長崎県諫早市の実習施設で社員教育に取り組む。8月末に訪れると、白いつなぎ姿の若い男性2人が講師の助言を得ながら、慣れた手付きで製造装置を分解、清掃のうえで組み立て直していた。いずれも専門学校卒の21歳で、「半導体を勉強した経験はない」と口を揃える。

装置の保守を学ぶOSナノテクの社員(記者撮影)
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