「国富でなく民富こそ国力」と喝破した孟子の真意 「実質賃金マイナス」時代に必要な王道政治と士

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諸国もまた経済発展を求めて利益追求に邁進します。経済的利益が重要視されると末端に至るまで利益や効率を追求するようになり、後にこの時代は誰もが利について話していると言われるまでになりました。こうした価値観を「功利」と言います。そして、能力のある人物が既存の身分秩序や伝統にとらわれず、経済力と軍事力によって国をまとめあげるやり方は、後世「覇道」と呼ばれることとなりました。
功利がいきすぎると個人的な利益追求が強まり、果てしない欲求を満たすために人々は争うようになります。健全な自由競争は影を潜め、なりふりかまわない利益の奪い合いが始まり、やがて克服不能なまでに広がった格差と弱肉強食の社会が生まれました。(前掲書23頁)

真の国力は「国富」ではなく「民富」

しかし孟子はこのような弱肉強食の「覇道」ではなく、「生きている者を養い、死んだ者にはきちんとした葬式を出して、後悔が残らないような生活を保証する」という「王道」政治を提唱します。

また孟子は、真の国力とは税収の多さである「国富」ではなく、国民の資産である「民富」であると述べたのでした。これを知ると、どうしても僕は現在の日本の状況を思い浮かべざるをえません。現在の日本の状況とは、物価高により昨年度の国の税収が過去最高を記録する一方で、実質賃金は14カ月以上マイナスが続いている状況です。まさに孟子の言う国富は増える一方、民富は苦しくなり続けています。

さらに孟子は、自由経済の結果として人びとが都市に集中し失業者があふれ格差が増大した状況を脱するため、周王室で行われていた井田法の実施を提案します。

井田法は、土地を「井」の字のように9等分して、真ん中の1区画を公田として国家が確保し、残りの8区画を8世帯の国民に分配するという土地整理法です。土地を与えられた8世帯は、みずからの土地で穀物や桑などを植え、そこで得た収入を無課税で丸取りできます。

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