物価高で変化ある?「節約レシピ」で今人気の食材 食費の節約と栄養バランスの両立は難しい

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実は節約レシピは、料理メディアの歴史と共に存在する。

『主婦の友』では、大正時代から節約レシピを紹介し、別冊付録などでも特集してきた。同誌の歩みをまとめた『ニッポンの主婦 100年の食卓』では、1920(大正9)年4月号の「経済的な一週間分の総菜料理」や、1925(大正14)年7月号の「一食80銭以内でできる家庭晩餐料理」などの特集を紹介している。

『きょうの料理』(NHK)では、不況時期以外でも、くり返し節約レシピを紹介してきた。最初は、放送が始まって3年の1960年から1962年にかけの『4品を100円で』では、値段と品数を記した節約献立で、レシピ提供者は土井勝氏。

第一次オイルショック後の1975年4月から1年間は毎月、サバ、キャベツ、めざしといった安い食材を使った「経済的な献立」を、村上昭子氏が紹介している。2000年代初頭までは献立提案がほとんどだが、2006年2月の「冬野菜の節約おかず」以降、食材を切り口にした単品レシピの紹介も多くなった。

節約と栄養バランスを両立する難しさ

台所の担い手の助っ人を任じる料理メディアと共に、長い歴史を歩んできた節約レシピ。その中で、レシピ提供者たちは1皿で食材を組み合わせる、献立提案する、など栄養のバランスはつねに念頭に置いてきたと思われる。

しかし、『きょうの料理』が、レシピサイトが既存メディアの人気を凌駕する前から、単品の節約レシピの提案をよく行うようになった点は気になる。トレンドに先行する提案を長年行ってきた番組だけに、いち早く食材ごとの単品レシピを求めるトレンドを見出したのだろうか。

節約レシピで健康を損ねるとすれば、それは個々のレシピというより、栄養バランスに配慮した献立の知恵不足にある。学校の家庭科で栄養について学んだ人は多いが、家庭科教育は軽視されがちだ。食事バランスガイドを作成するなど、国も栄養情報を提供しているが、どれだけの人が参考にしているかわからない。

物価高で家計が圧迫される人はもちろん、経済的に厳しい生活を送る人でも、健康的な食生活を送るにはどうすればよいのか。そうしたレシピにとどまらない料理の情報提供が、インターネットを含めたメディアの課題ではないか。同時にそれは、生活者の私たちも気を付けるべき問題と言えるだろう。

阿古 真理 作家・生活史研究家

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あこ まり / Mari Aco

1968年兵庫県生まれ。神戸女学院大学文学部卒業。女性の生き方や家族、食、暮らしをテーマに、ルポを執筆。著書に『『平成・令和 食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)』『日本外食全史』(亜紀書房)『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた』(幻冬舎)など。

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