「部下が離れていく人」が知らない適切な距離感 「心理的安全性」で部下も上司も悩んでいる

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一方、Sさんの部下で入社8年目のKさん。仕事に対する意欲も高く、主任になる可能性も出てきており、Sさんに積極的に厳しい指導を求めてきます。ちょうど、Gさんの長期休暇でマネジメントに自信を無くしていたSさんは、Kさんから「夕方に提案書の確認とアドバイスをお願いしたい」と言われたにもかかわらず「今日はやめておこう。無理しないほうがいい」と退社をすすめてしまいました。

ほかにも、Gさんのクライアントが提案期日について無理な条件を出してきたとき、上司のSさんに相談してきたときのこと。「応える必要はない」とアドバイスしたところ、そんな甘い指導しかできないのかと思われたようで、「不満です」と言われてしまいました。さらに人事部に対しても「うちの上司はやる気がない」と連絡されることに。

1on1をやれば、すべてうまくいくわけではない

もはや、管理職としてメンバーにどのような距離で接したらいいのかがわからなくなり、Sさんは頭を抱えてしまいました。

これは大変難しい問題です。「心理的安全性」の確保において、安全と感じる会社(上司)と自分の距離感は人によって違います。さらに言えば、タイミングでも変わってきます。この距離感を適切に捉えるにはどうしたらいいのか? その方法は1つしかありません。定期的に相手の状況を把握することです。そう考えると1on1と呼ばれる面談は管理者にとって有効な手段かもしれません。

実際、現場を仕切るマネジメント層が心理的安全性をすべての部下に対して確保するため、各自のコンディションを把握するために1on1を行う。こうした動きは各社で始まりつつあるようにみえます。1on1とは週1回から月1回ほどのペースで定期的に1対1で対話すること。日本では、ヤフー株式会社が取り入れたことから広まったと言われています。

心理的安全性に関する1on1の最も大きな効果ともいえるのは「自分を受け入れてもらえている」という実感が高まることかもしれません。

取材した広告代理店では1on1の実施から1年が経過したところで、エンゲージメント調査をしたところ、心理的安全性の確保に関するカテゴリーの設問で点数が大きく上昇。効果が出てきているようだと、嬉しそうに人事部が話をしてくれました。ただ、どの会社でも1on1をやれば、すべてうまくいくわけではありません。それなりに手間をかけて取り組む必要があります。

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