「ウソばかり」障害者を支援するA型事業所の実態 自治体に"出勤簿"を開示請求して明らかに

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その後も福祉担当の部署から「パワハラは労働問題」と言われたので労働担当の部署に行くと、今後は「それは障害者への虐待なので福祉の問題」と言われるといったたらい回しが繰り返された。

「(就労継続支援A型の利用者は)福祉と労働の制度の狭間に陥っていると感じました。どの担当者もいかにも面倒くさそう、適当に聞いている様子がありありでした」

コウジさんは大阪市内の共働き家庭で育った。「学校の勉強についていけなかった」と言い、高校卒業後は清掃会社の正社員として働く。ところが、勤続数年で会社が倒産。コールセンターの派遣社員に転職したものの、「とにかく電話対応ができなかった」。客や上司から怒られる日々の中で原因不明の発熱が続くようになり、最終的にうつ病と診断された。

職業訓練学校を経て派遣のプログラマーとして働いたが、やはり仕事が遅い、大切なデータを消してしまうといったミスが重なり、再びうつ状態に陥る。心療内科で「僕、発達障害ですよね」と訴え、ADHD(注意欠陥・多動性障害)との診断を受けた。しばらく傷病手当などで食いつないだ後、ハローワークから紹介されたのが問題の事業所だった。

搾取する事業所も少なくない

就労継続支援A型事業所にも理念を持って運営されている施設はある。一方で最底辺の条件・待遇で単純作業ばかりを担わせる、障害者への支援どころか搾取する場になっている事業所も少なくない。コウジさんの月収は障害年金と合わせても13万円ほど。これでは生活保護水準と変わらない。

非正規労働者も含め、企業がいったん採用した以上、できるだけ雇用は維持するべきだというのが私の持論だ。仕事が遅いというなら、教育研修の機会をつくればいい。経営はボランティアではないとの意見もあろうが、「企業は社会の公器」ともいう。コウジさんのように発達障害と診断されることを切望する人を大勢生み出す社会が健全といえるのか。「分厚い中間層」の破壊は、個人消費を支える担い手の喪失にもつながる。

それでも企業がコウジさんのような労働者を排除しなければ生き残れないというなら、代わって行政が責任を担わなければならない。今回はサービス提供実績記録票を見せたことで、自治体はようやく調査に乗り出したようだ。しかし、本来は当事者にここまでの負担を強いる前に、行政は責任を果たすべきだったのではないか。「利用者の中には『事業所よりも行政のほうが悪い』と怒っている人もいました」とコウジさんは言う。

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