「ウソばかり」障害者を支援するA型事業所の実態 自治体に"出勤簿"を開示請求して明らかに

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就労継続支援A型事業所とは障害や難病のある人が雇用契約を結んだうえで、職員によるサポートを受けながら働く施設のこと。つまりコウジさんは福祉サービスの利用者であると同時に、労働者でもある。事業所の収入は「利用者の労働による収益」と、「職員が利用者を支援する見返りとして市町村から支払われる報酬(訓練等給付費など)」の2種類。後者の原資は公金で、利用日の水増しは不正請求として行政処分の対象になることもある。

コウジさんがさらに調べたところ、10月以外にも利用日の水増しが見つかったうえ、ほかの利用者たちの書類にも事実とは違う記載が複数箇所あることが判明。昨年11月、自治体の担当部署に「不正請求ではないか」と訴えた。担当者の顔が一気に青ざめたように見えたという。

「私物のカメラ機材を貸してほしい」

「問題はこれだけではありません」とコウジさんは憤る。この事業所で働き始めたのは2021年9月。趣味で一眼レフやビデオカメラなどを持っていたこともあり、求人票の仕事内容に「動画の撮影、編集」とあったことや、ハローワークの担当者から「すごくいい施設だから」と勧められたことが応募の決め手となった。

ところが、採用前の面接でいきなり私物である機材一式を業務用に貸してほしいと頼まれる。相場をはるかに下回る少額のレンタル代は払われたものの、費用は「(実際は休みである)土曜日に出勤したことにして捻出する」と告げられた。事実なら、これもまた利用日の水増しである。「本当は大切にしている自分のカメラをほかの人に使われたくはなかった。でも、動画撮影者を募集していたのはこの事業所だけ。断れませんでした」。

一方でいざ働き始めると仕事はほとんどなかったという。コウジさんは「半年間で大きな案件はミュージックビデオの制作が1回だけ。それ以外は職員から『とりあえず勉強しといて』と言われ、毎日ネットで動画編集に関するサイトを眺めていました」と証言する。1日4時間勤務で、時給は当時の最低賃金と同じ964円。賃金は月約8万5000円だった。

仕事がなければ、賃金も払えない。案の定半年ほどたつと、退職させられる利用者が続出した。コウジさんも「自己都合という形で辞めてほしい」と持ちかけられた。

コウジさんはこれを拒絶。すると今度は突然、鉄道駅周辺の清掃の仕事に行くよう指示される。コウジさんは「雇用契約書に書かれていない業務です」と訴えたが、聞き入れられなかった。その後、「清掃業務」「軽作業」という項目が追加された雇用契約書にあらためて署名捺印するよう迫られた。コウジさんは「動画撮影という最初の約束と違う」と抵抗したが、職員からは「(署名しなければ)懲戒解雇にする」と無理強いされたという。

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