「発達障害男性の同僚」が追い詰められた深刻事情 「ありがとう」「ごめんなさい」がなぜ言えないか

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発達障害の特性を持つエイジさん
喫茶店でコーヒーを出されたときに「ありがとうございます」と言う、相手の話を「はい、はい」とうなずきながら聞く。発達障害の特性を持つエイジさんにとってはすべて「よくわからないルール」。今は定型発達の慣習に合わせようと、日々観察に励む毎日だという(筆者撮影)
現代の日本は、非正規雇用の拡大により、所得格差が急速に広がっている。そこにあるのは、いったん貧困のワナに陥ると抜け出すことが困難な「貧困強制社会」である。本連載では「ボクらの貧困」、つまり男性の貧困の個別ケースにフォーカスしてリポートしていく。

「プライドの高い奴だな」先輩は内心戸惑った

先輩「先方は怒ってないって言ってくれてるからさ。こっちからも一言謝っておこうか」

エイジさん「……」

先輩「『お昼ごろに行きます』って言われてたのに、昼ご飯食べに出ちゃったんでしょ」

エイジさん「……」

先輩「今後の関係もあるから、一応謝ったほうがいいと思うんだよ」

エイジさん「……」

エイジさん(仮名、37歳)が1人で事務所の留守を預かっていたときのこと。来客から「昼ごろに行く」と伝えられていたにもかかわらず、エイジさんは正午過ぎに昼食を取るために部屋を施錠して外出してしまったのだ。来客は待ちぼうけを食わされた挙句、そのまま帰ったという。

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後日、先輩とエイジさんが仕事のため都内の道路を車で走行中、このトラブルのことが話題になった。助手席から謝ろうと諭す先輩。それに対してハンドルを握ったまま無言のエイジさん。次第に車内の空気が険悪になっていった。

「プライドの高い奴だな」。先輩はそう思って内心戸惑ったという。一方のエイジさんは何を考えていたのか。

先に種明かしをすると、エイジさんは発達障害の特性を持っている。「お昼ごろ」というあいまいな指定ではなく、「〇時ごろ」と具体的な時刻を伝えられていれば、行き違いは生じなかったかもしれない。とはいえ、トラブルは現に起きてしまった。エイジさん自身も来客に迷惑をかけたという自覚があった。

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