東日本大震災であらわ、自動車メーカーが直面したサプライチェーンのわな

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 「取引先が工場を再開したと聞いて、実際に行ってみると、ラインの一部しか動いていないケースがある」(同社首脳)。取引先の実態を把握するには、現場に行くしかない。今こうした作業が、サプライチェーンのあらゆる段階で行われている。完成車メーカーがラインを実際に動かしてみて初めて、どの部品に問題があるのかわかることも多い。

今2012年3月期予想については、先行きが読めないとして非開示とする企業が多いが、アナリストは今期の生産を10~15%減るとの見方が多い。生産の回復が想定より早く進むことで、そのインパクトは減る可能性もある。しかしいずれにせよ上期は赤字の可能性がある。

日系メーカーにとっては、減産を余儀なくされる間、世界市場でシェアを守れるかが大きな課題になる。東京電力福島第一原子力発電所事故に絡む放射能汚染の風評問題で、日本車の「安心・安全」のブランドに影響が出始めている点も気にかかる。今後は特に中国・米国の2大市場での動向が焦点となる。

メリルリンチ日本証券の中西孝樹アナリストは、「自動車産業がグローバル化する中で、日本のサプライチェーンは空洞化ではなく、逆に膨張を続けてきた」と指摘する。実はこれまで日系メーカーの海外生産台数が増えれば増えるほど、日本からの部品輸出金額は伸びていった。つまり、日本の自動車産業は電機産業と異なり、国内を開発、調達、生産の基地として発展してきたのだ。だからこそ、震災で受けた自動車業界への打撃は甚大だった。

逆に言えば、今回の大震災は、サプライチェーンを変える大きなきっかけになるかもしれない。自動車産業の成熟化が進む中で、米国では部品産業が大幅に空洞化した。日本でも低コスト国からの調達拡大や、海外生産における現地調達率の引き上げが一層進む可能性もある。

「サプライチェーンを単に復旧してもコスト増要因になるだけ。新興国シフトなど世界市場の変化に合わせ、いかに“復興”するかが重要になる」(中西アナリスト)。大震災は日本の自動車メーカーに本質的な問いを投げかけている。

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(並木厚憲 =週刊東洋経済2011年5月14日号をもとに構成)

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