「どうせ円高に戻るはず」という時代遅れの発想 夏枯れ相場に進むのは、昔は円高、いま円安

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しかし、これまで円相場の押し上げに使われてきた「安全資産としての需要」はもはやスイスフランの専売特許のようになってしまっている。

最近で言えば、ロシアのウクライナ侵攻時に円は買われるどころか、結局売られている。もっと言えば、アメリカで株が売られている時に円高になるという、昔よく見られたようなパターンも最近ではそれほど安定していない。

今後、アメリカ景気の失速が鮮明になり、利下げ転換が現実味を帯び、ひいては世界経済全体に暗雲が垂れ込める状況になったしても、果たして円がどれほど求められるのだろうか。

「安全資産需要」は貿易サービス黒字あってこそ

「安全資産としての需要」はアウトライト(単独取引)の自国通貨買いを相応に含む経常収支(≒貿易サービス収支)があってこそ成立するものであり、例えばスイスフランやユーロにはそれがある。

片や、あくまで「会計上の黒字」である第一次所得収支(利子・配当など)の黒字頼みの状況に陥ってしまった日本において、かつて経験した強烈な円高が再現されることがありえるのだろうか。

大幅な利上げも難しく、需給環境の改善もさほど期待できないのだとしたら、円高が起きると言っても、かなり限定的な相場現象にとどまるのではないか。

「どうせ円高に戻るはず」というのは貿易黒字時代の発想であり、従前とは視点を変え、いくつかの仮説を走らせながら見通しを作っていくことが必要になると考える。

唐鎌 大輔 みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

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からかま・だいすけ / Daisuke Karakama

2004年慶応義塾大学卒業後、日本貿易振興機構(JETRO)入構。日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向し、「EU経済見通し」の作成やユーロ導入10周年記念論文の執筆などに携わった。2008年10月から、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)で為替市場を中心とする経済・金融分析を担当。著書に『欧州リスク―日本化・円化・日銀化』(2014年、東洋経済新報社)、『ECB 欧州中央銀行:組織、戦略から銀行監督まで』(2017年、東洋経済新報社)。

※東洋経済オンラインのコラムはあくまでも筆者の見解であり、所属組織とは無関係です。

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