花王「優等生企業」の憂鬱、なぜ改革が遅れたのか 最高益から一転「4期連続減益」負のスパイラル

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背景には、欧米顧客の在庫抑制の影響がある。景気後退や物流混乱を懸念して顧客が原料を買い控えたことで、高級アルコールなどの油脂製品等の需要が減少してしまった。

ケミカル事業の計画遅れは、今期の下方修正要因に含まれていない。三級アミンの新設備をドイツで増設する計画で、消費者向け事業の上振れも含めて後半に穴埋めできると見込む。

だが、花王は2018年度から5期連続で営業利益の業績予想未達を続けてきた。前2022年度も中間期に業績予想を下方修正したが、通期実績はそれを約350億円も下回る結果だった。今期も下方修正を発表済みだが、その達成すらも楽観視できない状況にある。

現場の意識を変えていく

「今期を底としてV字回復を目指す。事業再編による固定費の削減や、商品の付加価値化等を進め、来期から収益改善効果が徐々に発現し始める。2025年度からは年間300億円の利益改善を見込んでいる」(経営財務担当の根来昌一専務)

花王は前中期経営計画で掲げた2025年度の営業利益2500億円の目標を、1600億円へ引き下げた。構造改革を進めることで2027年度には、過去最高営業益となった2019年度の2117億円を超える目標を新たに掲げる。

「今回の構造改革で、今まで足かせだった部分を全て出し切る。グローバル戦略も強化し成長していく決意だ」と長谷部社長は言い切る。7月末にはオーストラリアの化粧品メーカー「ボンダイサンズ」を買収、さらなるM&Aを検討する方針だ。

社内改革も進めている。今まで販売部門が売り上げ確保を重視し、事業全体の収益を現場が十分に意識できていなかった。事業別に採算性を可視化できるROIC(投下資本利益率)を導入、現場の意識を変える狙いがある。

2020年に8000円台だった株価は、足元は5000円台まで落ち込んでいる。構造改革で膿を出し切り、日用品の国内王者は信頼を取り戻せるのだろうか。まさに正念場だ。

伊藤 退助 東洋経済 記者

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いとう たいすけ / Taisuke Ito

日用品業界を担当し、ドラッグストアを真剣な面持ちで歩き回っている。大学時代にはドイツのケルン大学に留学、ドイツ関係のアルバイトも。趣味は水泳と音楽鑑賞。

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