経済大不振に焦る中国は台湾侵攻に突っ込むのか 伝説のエコノミストが語るアジアの2大リスク

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資金循環統計をみていると2016年くらいから中国の企業はお金を借りなくなっている。かなり前からバランスシート不況は始まっていたのだ。

経済の発展段階からみると、いまの中国で企業が借金をしなくなるのは不自然だ。賃金が上がったとはいえ、しっかり輸出できていて企業の競争力も十分ある。EV(電気自動車)やバッテリーなど面白い製品を開発するメーカーも増えている。本来はもっとお金を借りて事業を拡大しないといけないはずだ。

――中国では財政出動を求める声が高まっています。

2008年のリーマンショック後に中国政府は「4兆元の景気刺激策」を断行して、世界にさきがけて経済を復活させた。今は中国の債務の大きさが注目されているが、あくまで貯蓄とのバランスで考えるべきだ。貯蓄が不足しているなら金利が上がっているはずだが、そういう状況ではない。こういうときは政府が借りて使わないといけない。

1954年神戸市生まれ。1981年にアメリカのジョンズホプキンス大学院博士課程修了、ニューヨーク連銀に入行しエコノミストを務める。1984年に野村総合研究所入社。バブル崩壊後の日本を分析した「バランスシート不況論」で世界的に注目された。著書に『「追われる国」の経済学』(小社刊)など。実家は台湾の名門で、日本の貴族院議員を務めた辜顕栄が祖父。著名な独立運動家だった故・辜寛敏氏は実父(写真:風間仁一郎)

カギになるのは中央政府による財政出動だ。地方政府はゼロコロナ政策の過程で大きな負債を抱えてしまい、財政刺激策を実施する余力が乏しい。不動産市場の低迷によって地方政府は土地使用権の売却によって収入を得ることも難しくなった。 

これまで負担を地方政府に押し付けてきた中央政府が前面に出るほかない局面だ。そのなかで一番乗数効果が高いのは、いま建設が中断している不動産開発プロジェクトを何が何でも完成させること。そのような政策は、GDPと人々のマインドの両方にプラスに効くからだ。

日本と中国の違いは何か

――早めに手を打てば中国経済は回復できると。

かつての日本との最大の違いは、中国政府はバランスシート不況という病気の存在とその対処法を知っているということだ。ただその一方で、日本の場合はバブル崩壊と総人口の減少の間に20年近い差があったが、中国では両者が同じタイミングで起きている。そのため、中国の政策対応はかつての日本より難しくなるだろう。

中国の1人当たり国民所得はまだ1万3000ドルあまりだが、一部の産業でベトナムやインドネシア、バングラデシュなどへの工場の移転が始まっている。企業が国内より海外のほうが儲かると思っているからだ。この流れが止まらないと「中所得国の罠」にはまる恐れがある。発展パターンや戦略を転換できず、1人当たり国民所得が中程度の水準(中所得)にさしかかったところで成長率が低下、長期低迷する現象だ。

中国の事業環境の不透明さ、経済統制の強化から企業が国内の投資環境に魅力を感じないところに問題がある。投資減税などを考えてもいいはずだ。

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