富士通、マイナ誤交付で揺らぐ「IT最大手」の足元 システム障害が頻発、大規模組織再編が遠因か

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こうした事態を重く見た総務省は2023年6月末、富士通とクラウドサービスを提供する富士通の子会社に対して、行政指導に踏み切った。サイバー攻撃の被害者である企業が行政指導を受けることは初めてとみられる。

総務省消費者行政第二課の担当者は「情報管理体制があまりにもずさんだ。ガバナンス上の問題が大きいと言わざるをえない」と憤る。

なぜ、富士通はここまで落ちぶれてしまったのか。ある業界関係者は「システムの品質管理に対する(リソース配分の)優先順位が下がったり、近年実施した組織再編が影響したりしているのではないか」と指摘する。

富士通の業績推移

富士通の業績は目下、好調を維持している。売上高はこの10年ほど漸減傾向にあるものの、2023年3月期の営業利益は過去最高を更新した。利益率の高いコンサル案件に加え、複数顧客向けに提供するクラウド型の共通利用型サービスなどが拡大する一方、コスト削減も奏功している。

ビジネスモデル転換、組織再編のひずみ

富士通は従来、企業や行政など顧客の要望を丁寧にくみ取って、独自仕様のシステムを開発して提供するスタイルを得意としてきた。しかしここ最近は、こうした「御用聞き」型モデルからの脱却を標榜。成長分野であるクラウドサービスなど、新規事業開発へ投資原資を優先的に回している状況にあった。

その実現に向け、大がかりな組織再編も進めている。

2020年には国内事業の強化を目的に富士通Japanを新設したほか、断続的に「ノンコア(非中核)」事業を売却。その傍ら、2022年3月には富士通グループの国内従業員数の約4%に相当する3000人超の大規模リストラを断行した。併せて2022年度からジョブ型の人事制度を本格的に導入し、先述の成長分野などで高いスキルを持った人材の登用を推進している。

組織体制がめまぐるしく変化する中、限られた人材を新規事業などに回さざるをえない状況が、システム管理やグループ全体のガバナンスを難しくした側面はあるだろう。

一連の問題を受け、富士通は2023年5月、グループ全体のシステム開発などを横断的に管轄する役職の新設や、同じくセキュリティを司る役職の権限拡大などの対策を講じた。しかしそのわずか1カ月後に、いったん点検したはずのマイナカードのシステムで誤交付が発生しており、前途は多難だ。

今後もシステム障害が頻発するようであれば、盤石であるはずの行政との取引でも、将来的に影響が出てくる可能性は否定できない。富士通が自ら襟を正すことができなければ、鼎の軽重を問われる日が来ることは時間の問題だろう。

高野 馨太 東洋経済 記者

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たかの けいた / Keita Takano

東京都羽村市生まれ。早稲田大学法学部卒。在学中に中国・上海の復旦大学に留学。日本経済新聞社を経て2021年に東洋経済新報社入社。担当業界は通信、ITなど。中国、農業、食品分野に関心。趣味は魚釣りと飲み歩き。

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