「生成AIが仕事奪う」怖がる人に教えたい生存策6つ 変化する時代に求められる人間の「価値」とは?

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異なる学問領域から横断的に実践知を探究する道は、研究者だけでなく、意欲を持ったさまざまな人に拓かれていくと思います。そしてインプットとアウトプット能力がどれだけ拡張されても、本当の創造的な洞察は、読書モードで鍛えた人間の大脳新皮質の長期記憶でしか起きません。

真実を探究し、それに向けて複数の専門的な概念を自分の脳のなかで統合する――知識が簡単に得られる時代になるからこそ私は、人間にしかない探究心と静かに集中した読書モードは重要になっていくと思います。

6.デジタルモード→新たな身体知、さらなる拡張

インターネット検索やナレッジマネジメントツールなどによるインプット、そして、ブログやSNSによるアウトプット。その双方がデジタルテクノロジーによって拡張できるようになりました。そして生成AIはそれをさらに強力に推し進めます。

生成AIによってさまざまな情報を簡単にインプットすることができ、かつアウトプットの多くの作業(記述、データの構造化、プログラミングなど)を自動化できるようになりました。私自身、現時点で検討すべき懸念をいくつか持っていますが、AIの開発は今後止めることはできず、またすべきではないと思っています。

AIが私たちの「身体の一部」となる

歴史を振り返ると、新しいテクノロジーが生まれたとき、「思考のアウトプットの内容に影響する」という抵抗勢力が必ず生まれます。

ワープロが導入された80年代には、「ワープロ手書き論争」(ワープロは作品の内容を変えてしまうので、手書きで書くべきという議論)がありました。電話が発明されたとき、当時のアメリカ大統領ラザフォード・B・ヘイズは「驚異的な発明だ……だが、いったい誰がこれを使いたがるというのだ?」とコメントしています。当時は、人々は直接会って会話することをたのしんでおり、そのたのしみが減るからと導入を拒んだ人がけっこういたそうです。

しかし新しいテクノロジーの普及は止められず、私たちは電話やワープロソフトがない時代を想像できません。それらのテクノロジーは、ピアニストにとってのピアノのように、私たちの身体の拡張された一部になっています。

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哲学者ニーチェは、病気で健康状態が悪くなり、視力が衰え、執筆が危ぶまれた1882年に当時新しく発明されたタイプライターをブラインドタッチで使用するようになり、それによって執筆活動を復活させることができました。

その際、文章がタイトで力強いものに変化していったと言われており、ニーチェ自身も「執筆の道具は思考に参加する」と認めています。

私は、オフィスでも旅先でもどこでも、知らないことに出会うとネットで無意識のうちに調べることが習慣になっています。思いついた事は、スマホのメモ帳アプリにメモします。

生成AIも、1~2年の混乱と試行錯誤の後、安全で標準的な活用方法が確立し、社会に浸透し、ごく当たり前に使われるようになるでしょう。人間の脳の長期記憶の容量がデジタル空間のセカンドブレインを活用して拡張し、AIが提示してくるさまざまな示唆や情報からも刺激を受け、新しい考えを数倍濃密に思考できる新しいデジタル環境が整ってきたと言えます。

いまや電話やワープロがなかった時代のことを想像できないように、生成AIは私たちの身体の拡張した一部となってデジタルモードの脳の働きを支えていくことと思います。

安川 新一郎 東京大学未来ビジョン研究センター特任研究員、グレートジャーニー合同会社代表

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やすかわ しんいちろう / Shinichiro Yasukawa

1991年、一橋大学経済学部を卒業後、マッキンゼー・アンド・カンパニーへ入社、東京支社・シカゴ支社に勤務。99年、ソフトバンク株式会社に社長室長として入社、執行役員本部長等を歴任。2016年、社会課題を解決するコレクティブインパクト投資と未来社会実現のための企業支援に向けグレートジャーニー合同会社を創業。これまで東京都顧問、大阪府・市特別参与、内閣官房政府CIO補佐官、公益財団法人Well-being for Planet Earth共同創業者兼特別参与んど、行政の現場や公益財団活動からの社会変革も模索している。

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