衰退に向かう中国が「台湾有事」を引き起こす必然 日本が巻き込まれる可能性をどう見るべきか?

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――デジタル技術が国家間競争の中核になりつつある中、アリババ・グループは事実上、政権に屈する形で6つの部門に分割されました。このようなデジタル専制主義が中国経済へもたらす影響をどうみていますか?

デンジャー・ゾーン 迫る中国との衝突
『デンジャー・ゾーン 迫る中国との衝突』(飛鳥新社)。2020年代が米中新冷戦のもっとも危険な時期(デンジャー・ゾーン)で、台湾侵攻の最悪の事態に備えるよう説く話題の書。共著者のベックリー氏は、タフツ大学政治学部准教授。

中国政府は基本的に、中国ハイテクセクターの主要部分に対する取り締まりを行っている。これは、経済ダイナミズムや経済成長をある程度犠牲にしてでも、経済に対する政治的統制を強める習政権の政策の一環である。

習近平は1990年代や2000年代の多くの指導者と比べ、急速な経済成長よりも国家安全保障を重視していることを明確にしている。また、イデオロギー的な支配を確保することにますます関心を寄せている。

これは、習近平とその政府が中国経済の主要部門に対してより大きな支配力を行使しようとする、より大きな動きの一部分である。

神経質になる中国政府

――2023年に習近平は正式に政権3期目へと突入した一方、足元では中国経済の減速が目立ってきています。2022年8月に著書を出版して以来、最近の中国情勢で懸念すべき大きな変化はありますか?

 習近平は2022年10月の党大会で政権をしっかりと固めた。自分の忠実な人物をすべて要職に就かせることに成功し、党の中央軍事委員会を――ある日本人の同僚が私に「戦争評議会」と表現したように――1970年代後半の中国最後の大規模なベトナム軍事作戦の経験者や、台湾に対峙する軍管区の経験者を集めたものに作り変えた。経済の減速は顕著であり、習近平が何としてでも成長を追求する姿勢を後退させたとはいえ、中国政府は明らかに神経質になっている。

 中国からますます悲惨で好戦的なレトリックが出てきていることも指摘しておきたい。習近平は、アメリカは中国を封じ込め、抑圧しようとしていると述べ、強風、大海原、さらには危険な暴風雨が待ち受けていると警告している。これらは一般的に、アメリカとの武力衝突のリスクを指すと解釈されるフレーズだ。

――米中が協調する動きもあります。2022年11月、バイデン・アメリカ大統領と中国の習近平国家主席がインドネシアのバリ島で会談。また、2023年6月中旬には、ブリンケン・アメリカ国務長官が北京を訪れ、外交を統括する王毅政治局委員と会談した後、習近平国家主席と会談しました。これらは現在の緊迫した状況に対して、どのような効果があるでしょうか?

こうした訪問は対話の機会を作り、議論のプロセスを作るのに役立つので、ある意味では非常に重要だ。しかし現実には、こうした話し合いのいずれもが、両国の基本的利益が対立しているという事実を意味あるものに変えることはできない。これらの会談から生まれるいかなる外交的平穏も、1月の気球撃墜事件で見られたように、混乱を招きやすい。両者による対話は、この大きな競争における一時的な休息にしかならないだろう。

――2023年5月に広島でG7サミットを主催した岸田文雄首相の役割については、どう評価しますか?

この1年間、日本や自由世界の対中政策の展開において、岸田首相は非常に重要な役割を果たしたと思う。ある知人が私に語ってくれたように、彼は、安倍晋三政権時代が提案した数々の政策を、多くの論争を伴うことなく推し進めた。

岸田政権は、日本の防衛費を大幅に増やし、南西諸島におけるアメリカとの協力関係を緊密にする計画を進めている。日本は中国との技術競争において、また中国の経済的威圧を鈍らせることにおいて、ますます重要な役割を果たしている。私は、日本は21世紀においてアメリカの最も重要な同盟国として浮上してきたと考えている。それは、日本における過去のさまざまな指導者についても言えたことだが、岸田首相のもとでそれがもっともはっきりしたということが言えるだろう。

二階堂 遼馬 東洋経済 記者

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にかいどう りょうま / Ryoma Nikaido

解説部記者。米国を中心にマクロの政治・経済をカバー。2008年東洋経済新報社入社。化学、外食、ネット業界担当記者と週刊東洋経済編集部を経て現職。週刊東洋経済編集部では産業特集を中心に担当。

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