アダルトビデオ界の大物が切り拓く"新境地" 異色経営者DMMグループ亀山敬司伝<3>

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亀山は過去、旅行代理店を潰したし、最近もクーポン事業からは撤退している。が、“引く経営”は裏返せばそれだけ多くの商売に挑んできたことでもある。

亀山の中では「たまたま当たったのがAV」との感覚が強い。やってみたら売れたのだ。「自分の感性よりも、実際売れているかどうかに素直に従う」と話す亀山のこれまでは試行錯誤の連続だった。

部下を信頼し、人を憎まない

部下を信頼し、人を憎まないのも特質だろう。亀チョクと異なり、一般従業員は終身雇用が基本。でなければ優秀な幹部は育たない、と考える。「だって普段、会社は上前をはねてるんだから、やばい時に保護しないと組織の意味がない」とは亀山の弁だ。

またこんな例もある。以前、AV事業の大幹部が不正をして税務調査に入られる騒ぎがあったが、その人物を解雇しても付き合いは続けた。「最大の功労者だもん。悪気があったわけじゃない。おカネが目の前にあれば誰でもそうなっちゃうでしょ」。亀山はさらっとそう話す。「悪気がない」とは言い過ぎな気もするが、世知辛い世の中、これほど性善説を信奉する経営者も珍しい。

「考え方がシンプルできっちりしている」。かつて日本ベンチャー協議会を主宰し、経営者の浮き沈みをいやと言うほど見てきた天井次夫は亀山をそう評する。会食の帰りにDMMの若手社員に渡したタクシー代1万円を、亀山は翌日、茶封筒に入れ丁重に返してきた。社内で禁じていたからだ。「そうしたことをできる経営者はなかなかいないよ」とさすがの天井でも感心する。

亀山はかつて高額納税者番付の常連で知られ、間違いなく日本有数の億万長者だが、生活ぶりは至って地味だ。毎日、30分かけて自転車で恵比寿の本社に通い、200円の駐輪場にとめている。休日には近所の麻雀荘をふらりと訪れ、学生らと卓を囲む。少し前までマイカーはマツダの「デミオ」。加賀に帰った時の移動手段は今でも小松空港で借りるレンタカーだ。

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