「器の小さい人」怒らせてみるとわかるという真実 なぜ"アホ"は怒り、成功者は感謝するのか?

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この経験をもとに、若い人に説教するアホにならないように自戒している。私がすべきは、リスペクトを持って話を聞いて自分の考えをシェアするだけだ。経験を積んだ人物は時に若い人の盾になり、壁に当たっているときにそっと励ましたりするのが役割だ。 

あらゆる場面で「Thank you」しか言わない成功者

私の周りにいる成功者を観察した結果も記しておこう。

ロンドンに居る投資先の起業家を訪ねたときに感心したことがある。この起業家と1日ともにしたのだが、タクシーや自分の会社、レストランなどあらゆる場面で「Thank you」しか言わないのだ。

会社の施設に私を案内した際、警備員がセキュリティーを理由に彼を足止めした。彼を創業者とは知らないようだった。彼は笑顔で「いつも頑張ってくれてありがとう。僕はこの会社の創業者のディビッドです。すばらしいセキュリティーでありがとう。どうかわたしを通してくれませんか? アジアからわざわざ視察に来てくれた友人と一緒なのです」と感謝を口にした。

驚いて謝る従業員に対しても、「ありがとう。そういう真摯な姿勢が会社にとっていちばん大事です」とお礼を言う。レストランでも注文した後に別のウェイターさんが注文をとりに来たところ「すばらしいサービスありがとう。でもあの人に注文したばかりです。それでは飲み物の追加をお願いします」という感じだ。

『頭に来てもアホとは戦うな! 賢者の反撃編』(朝日新聞出版)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

威張らない。これがこれからの若者を顧客に持つ企業のトップの姿勢だろう。彼の「Thank you」攻撃は皆をハッピーにする。地位が高い者、成功しつつある者が腰低く「ありがとう」ばかり周りにいっていたらどうなるだろうか。味方ばかりできていくはずだ。

起業家は、いろんな人の力を借りなければ成功できない。周りを勢いだけでなく、感謝の気持ちで巻き込むことは非常に大きい。「Thank you」の輪は広がる。聞いてみると入れ替わりが激しいスタートアップの世界でも彼の会社の人材の定着率は抜群に高い。

アホには威張らせておけばいい。キレさせておけばいい。張り合わせておけばいい。教えてあげてもこちらが返り血を浴びるくらいだろう。そんなアホは放っておけば自滅する。アホがアホな振る舞いをしているのを尻目に、彼らを魅了するくらい「ありがとう」を繰り返すことが自分の人生を成功に導く。

田村 耕太郎 国立シンガポール大学リークワンユー公共政策大学院兼任教授、2024年一橋大学ビジネススクール客員教授

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たむら こうたろう / Kotaro Tamura

早稲田大学卒業後、慶応大学大学院(MBA)、デューク大学法律大学院、イェール大学大学院各修了。オックスフォード大学AMおよび東京大学EMP修了。ランド研究所研究員、新聞社社長を経て、2002年から2010年まで参議院議員。第1次安倍政権で内閣府大臣政務官。

2014年より、国立シンガポール大学リークワンユー公共政策大学院で「アジア地政学プログラム」を運営し、20期にわたり500名を超えるビジネスリーダーが修了。2022年よりアメリカ・サンディエゴでアメリカ地政学プログラム開催。

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