中国向け半導体輸出規制が日本に「無風」のナゼ 結果オーライ?直面した中国のしたたかさ

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アメリカの輸出規制を受けた昨年11月、東京エレクトロンは前2023年3月期の売上高予想を2500億円下方修正した。このうち半分程度が中国向けの売り上げの減少分だと見積もっていた。規制によって中国メーカーの半導体製造が厳しくなると見込んでの下方修正だった。

ところが東京エレクトロンの河合利樹社長は決算説明会で、今2024年3月期の中国向けについて「顧客の最先端分野への投資は抑え気味になっている一方で、多くがレガシー(成熟品)分野の投資に積極的になっている。売上高に占める割合は30%程度になるだろう」と語った。

同社は今期売上高1兆7000億円を見込む。このうち中国向けは約5100億円で、前期比2%増を計画する。全社で23%の減収を見込むことを考えれば、かなり目を引く数字だ。

「レガシー(成熟品)分野の半導体」とは、主に家電や自動車、産業機械向けに使われる。最先端のスマホやデータセンターに搭載されるものよりも、古い世代の技術を使って製造されるものだ。

半導体の自給率が低い中国では、国策ファンドを通じて半導体産業に多額の補助金がつぎ込まれてきた。「先端品に限らず成熟品のニーズも強く、メーカーなど関連企業にはかなりの支援が流れ込んでいる」(中国企業に詳しい千葉大学客員准教授でジャーナリストの高口康太氏)。

製造装置メーカーの目には「中国メーカーの投資意欲は非常に高い。先端分野で規制があるたびに投資戦略を変えてきている」(東京エレクトロン)と映る。前述のSCREENでも同様の理由で中国向け売り上げが伸び、全体の業績を引っ張る見込みだ。2024年3月期には中国比率は3割にまで拡大するとみられる。

「中国向けの約半分が出荷できなくなる懸念も持っていたが、日本の規制は本当に最先端のものに限られていた。実際に輸出できなくなるものはほとんどない」(SCREENホールディングス)という事情もあるようだ。

悲観ムードはなし

中国以外の市場の先行きについても、業界全体に悲観ムードは漂っていない。東京エレクトロンをはじめ大手装置・材料メーカーのほとんどが今期は大幅減益を見込むが、目線はすでに2024年以降の回復に向いている。

ルネサスエレクトロニクスもパワー半導体の増産を計画している(提供:ルネサスエレクトロニクス)

東京エレクトロンでは今期の設備投資額を前期比約7割増となる1240億円と計画する。熊本県や宮城県をはじめ複数の地域で、装置増産に向けた生産設備の新棟建設などを進める。SCREENを含むほかの大手装置・材料メーカーも、今期の設備投資額は高水準となっている。

装置メーカーだけではない。国内半導体メーカー大手のルネサスエレクトロニクスも、甲府工場に900億円を投じて自動車や家電に使われるパワー半導体の増産を計画中。同工場は生産拠点統廃合の一環で2014年に閉鎖していたが、今回の増産投資に伴って10年ぶりに再稼働する見込みだ。

足元はシリコンサイクルの後退局面で不況に沈むが、中長期での市場拡大に備えた設備投資は勢いづいている。半導体関連企業の強気姿勢は、まだまだ続きそうだ。

石阪 友貴 東洋経済 記者

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いしざか ともき / Tomoki Ishizaka

早稲田大学政治経済学部卒。2017年に東洋経済新報社入社。食品・飲料業界を担当しジャパニーズウイスキー、加熱式たばこなどを取材。2019年から製薬業界をカバーし「コロナ医療」「製薬大リストラ」「医療テックベンチャー」などの特集を担当。現在は半導体業界を取材中。バイクとボートレース 、深夜ラジオが好き。

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