まだまだある!「弁護士は食えない」のウソ 平均所得は今でも開業医に次ぐ水準

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(写真:amaguma / PIXTA)

※ 前編はこちら『データで検証!「弁護士は食えない」のウソ

「食べていくこともままならない若手弁護士」――。そんな定説が本当なのか、前回に引き続き、さまざまなデータを検証してみたい。

まずは弁護士の格差拡大と貧困化の根拠とされている、申告所得のデータを取りあげたい。弁護士の所得に関する統計は国税庁の「税務統計」と、厚生労働省が実施している「賃金構造基本統計調査」の2つだけだ。

このうち賃金構造基本統計調査は従業員10名以上の事業者をランダムに抽出し、アンケート用紙を送付する形で実施している。事業主に対し、従業員に支払った給与を尋ねる調査なので、いわゆるイソ弁(居候弁護士=雇われ弁護士)が法律事務所から給与所得の形で受け取っている金額は反映されるが、イソ弁が自力で獲得した案件の報酬は含まれていない。

しかも弁護士が調査対象となったのは2005年以降なのでそれ以前の統計がなく、抽出対象の事務所規模に、年によってかなりバラつきがあるらしく、従って金額のバラつきも激しいので参考にならない。

このため、参考になるのは税務統計だけなのだが、使えるデータは2008年以降のもののみに限定される。というのも、2007年以前は確定申告を行った個人事業主のうち、申告とともに納税もした人の分しか、国税庁は産業別の統計をとっていなかったからだ。

所得データは「貧困化」の証拠になる?

還付請求した人も含めた産業別のデータは、2007年以前の分はそもそも国税庁自身が取っていないので存在しない。弁護士報酬は源泉徴収の対象なので、還付請求をした人の分も含めないと全体像は掴めない。

すると、2008年から2013年までのデータで判断するしかない。弁護士の一人当たりの平均所得(言うまでもないが収入ではなく、経費を差し引いた後の所得である)は、2008年は1406万円だったが、2013年には940万円。申告所得が100万円以下の人数は、2008年の2879人から2013年の4970人へと大幅に増えているから、稼ぐ弁護士とそうではない弁護士の格差が拡大、貧困化が進んでいる、とされているわけだ。

しかしデータを細かく見ていくと、違った側面が見える。まずは「事業別平均所得推移」のグラフをご覧いただきたい。比較的高い所得を得ている税理士・会計士やプロのスポーツ選手、獣医、それに弁護士の隣接業である司法書士の一人当たりの平均所得と、給与所得、事業所得全体の平均との比較を試みたものだ。

ここで言う給与所得者とは、確定申告をしている給与所得者で、源泉徴収されたまま確定申告を行っていない大多数のサラリーマンは対象になっていない。事業所得全体の平均所得が200万円弱の水準で推移している中、弁護士の940万円は、開業医に次いで2番目の高さ。2008年当時からほとんど変わっていない歯科医とほぼ同水準である。

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